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いぬとねこの病気disease of dog and cat

はじめに

方針イメージ

獣医療の進歩といままで原因すら不明であったような病気の解明が進み、さまざまな治療法も開発されてきました。その進歩はめまぐるしく、我々獣医ですら日々の努力なしではあっという間に時代の流れから遅れてしまうほどです。
このページでは星の数ほどある、いぬとねこの病気(たまにそれ以外も)について飼い主の皆様にわかりやすく、そして少しだけ詳しく説明していきたいと思います。


※注意※このページの内容はあくまで参考程度にしてください。できる限り正確な情報を発信したいとは思っていますが、間違っていることもありますので病気になったときはきちんと病院にいってください。

いぬとねこの病気

第79回 巨大結腸症 2018.6.7
みなさんこんにちは。ここ数日、とても暑いですね。もともと暑いのは苦手ですが、5月や6月の夏前の、暑さへの覚悟ができてない時期に突発的に暑いのは夏よりもつらく感じてしまいます。

さて、今回は巨大結腸症という病気です。これは猫に多い病気で、結腸に便が大量に貯留してしまい、腸壁が伸びて拡張してしまうというものです。
末期になると、自力では排便ができなくなり、何度もトイレに行って過度にいきみ、非常につらい状態となります。

この病気は、結腸を支配する自律神経の異常が原因でなります。
高齢になり自律神経が乱れることで、結腸の運動性が低下し、便の排泄が滞るようになり慢性的な便秘となります。
これが長期的に続くと、常に結腸内に便が貯留するようになり、結腸を押し広げてしまい、さらに神経の働きが悪くなるという悪循環に陥ります。
最終的には、まったく便が出なくなり、頻繁にトイレに出入りし、強くいきむことで嘔吐してしまい、食欲もなくなりぐったりします。

診断は、頻繁にトイレにいっていきむという症状と、レントゲンで便が大量に貯留しているのを確認して下します。
重度の場合は、レントゲンを撮るまでもなく、腹部の触診だけでわかることもあります。
ただ、頻繁にトイレに出入する病気として膀胱炎などもあるので、尿検査や血液検査等の検査を実施する必要があることもあります。

治療は、まず、たまっている便を出すことから始めます。
腎機能や心臓などが悪くなければ鎮静剤で軽く眠らせ脱力させて、指などを使って便を摘出します。
その後、繊維質の多い療法食(消化器サポート可溶性繊維など)に変更したり、鉱物油等を食事に混ぜたりしながら、便通をよくするようにします。
最近は療法食の質が良くなってきているので、たいていは食事の変更でうまく維持できます。
ただ、なかには療法食を食べてくれなかったり、これらの治療をしてもどうしても便がたまりがちになってしまうため、下剤を使用したり、定期的に摘便処置が必要になるケースもあります。
あまりにひどい場合は、結腸を摘出する手術が必要になることもあります。
便は結腸で水分を吸収されて硬くなるので、結腸をとってしまうことで、柔らかい状態で便が肛門に到達するため、便秘に悩まされることはなくなります。
その代わり、常に軟便になってしまうので、どうしてもという場合にしか実施しません。

便秘はすぐに命にかかわるものではないですが、慢性的な便秘は猫にとって非常に不快で、生活の質が悪くなります。
便秘気味でも3日に一度くらい排便しているケースでは、そんなものかと様子を見ていることが多いと思います。
しかし、この頻度でも十分便秘気味といえるので、治療してみてもいいかもしれません。一度病院で相談してみてはどうでしょうか。

第78回 横隔膜ヘルニア 2018.3.15
みなさんこんにちは。3月になり、少しずつ暖かくなってきていますが、この時期は道路がぐちゃぐちゃな上、雪道はつるつるで、万が一こけてしまうと大変なことになってしまうので、真冬の時以上に外を歩くのが億劫になってしまいますね。

さて、今回は横隔膜ヘルニアです。横隔膜というのは胸とお腹の間にある仕切りで、ここが動くことで肺がひろがり、呼吸ができます。
焼肉ではサガリやハラミと呼ばれる部位で、膜とはいってもしっかりとした筋肉でできている組織です。
横隔膜ヘルニアという病気は、横隔膜に穴が開いてしまって、肝臓や腸などのお腹の中の臓器が胸部にヘルニアを起こす、すなわち脱出してしまう病気です。
本来であれば肺が膨らむはずの空間を内蔵が占拠しまうので、呼吸困難となってしまいます。

横隔膜に穴が開いてしまう原因としては、生まれつき開いている場合と、交通事故などで強い衝撃を受けて開いてしまう場合がありますが、ほとんどが事故などの後天的な理由で発生しているのではないかと思います。

診断は、最近腹部に強い衝撃を受けるような出来事があり、その後からお腹を使って呼吸をする努力性困難を呈していて、さらにレントゲンで胸の中に腸などがあるのを確認できれば比較的簡単に下せます。
超音波検査なども併用するとより確実に診断できます。

治療としては、手術でお腹側から飛び出した臓器を引っ張って戻してから、横隔膜の穴をふさぐだけです。
飛び出していた臓器がねじれていたり、肺がつぶされて穴が開いていた場合は少し大変ですが、そのような状況がなければそれほど難しい手術ではありません。
ただ、交通事故などで横隔膜ヘルニアになった場合は、よほど呼吸状態が悪くない限り、まず他の部分の治療を優先します。
受傷後、呼吸が苦しそうだからとすぐに手術をすると逆に麻酔事故などが起こり生存率が低いとのデータもあり、基本的にはまず出血や脳のダメージなどを治療し、全身の状態をよくしてから手術を検討します。

横隔膜ヘルニアは、普通に生活していればあまり出会わない病気ですが、散歩中に自転車にぶつかった犬や、脱走して帰ってきた猫がお腹を使って頑張って呼吸しているときは、この病気になっているかもしれません。
そんな時は急いで近所の病院で見てもらいましょう。

第77回 アセトアミノフェン中毒 2018.2.15
みなさんこんにちは。長い間更新を休んでいましたが、一部の方の熱い要望を受け、また再開することにしました。最後の更新から1年以上も経過していますが、このページを自宅の動物が病気の時に読んで参考にしたというありがたい声もいただいたので、がんばって続けていけたらと思います。

さて、久しぶりの今回はアセトアミノフェンという薬品による中毒です。久しぶりなのにさっぱりなじみのないテーマのようですが、アセトアミノフェンは人の風邪薬によく使用されている成分で、お世話になったことがある方も少なくないと思います。
巷ではインフルエンザが大流行中ですが、アセトアミノフェンは人では解熱や鎮痛効果があり、風邪によるつらい症状を抑えてくれますが、同じ感覚で犬や猫に使用すると重篤な中毒症状が生じてしまいます。

犬はあまり風邪のような症状を示す病気はないですが、猫はいわゆる猫風邪といわれるウイルス性の病気があります。
これは人の風邪とよく似た症状を示すため、 自分で治療してみようと飼主さんが自己判断でヒト用の風邪薬を飲ませてしまうことがあり、これで中毒を起こしてしまうことがあります。

アセトアミノフェン中毒の症状は、薬をのんで1時間から4時間くらいで生じます。
主な症状としては嘔吐、舌や粘膜の色が青紫色になるチアノーゼ、チョコレート色の尿があげられます。
これらはアセトアミノフェンにより赤血球や肝臓が障害されることにより起こる症状で、最悪の場合は死亡に至ることもあります。

では、どのくらいの量で中毒となるのでしょうか。犬では150~200㎎/kg、猫では犬よりも少ない50~60㎎/kgで中毒量となります。
一般の市販の薬で1錠あたり100~300㎎程度なので、300㎎の高容量のもので考えると、犬であれば5kgの小型犬であれば3錠くらいから危険になります。猫では半錠でも十分中毒量となる可能性もあります。
普通に考えて風邪薬をヒトの用量以上に投与することはないと思うので、犬の場合は盗み食いなどしない限り大丈夫と思いますが、猫であれば市販の風邪薬を少なめにあげてみただけでも危険な量となってしまいます。

治療としては、そもそも与えてはならないことを知らずに与えたことで生じる中毒なので、病院に来るのは投与から数時間経過後の中毒症状が出てからのことがほとんどです。
したがって、すでに大部分が吸収されてしまっているため吐かせても意味がないですが、もし万が一投薬後すぐに危険性に気が付いたなら、胃の中にあるうちに吐かせて、場合によっては胃を洗浄します。
さらに活性炭を投与し薬が体に吸収されないように、吸着させて排泄するようにします。
中毒症状が出てしまっている場合は、アセチルシステインという薬剤を投与し、点滴や制吐剤等の支持療法を行います。
治療は3日以上集中的に行う必要があり、この3日を乗り切れれば回復の見込みは高くなりますが、重症な場合は1日から2日で治療の甲斐なく亡くなってしまうこともあります。

犬も猫も人と同じ哺乳類ということで、家にある人用の薬やサプリメントをなんとなく使ってしまうことはよくあります。大半のものは犬や猫でも使用できますが、なかには風邪薬のようにほんの少量でも重篤な異常を起こしてしまうものもあります。
薬やサプリメントなどを自己判断で使うなとはいいませんが、使っていいかどうかはっきりしないときは必ず獣医さんに確認するようにしてください。

第76回 胃拡張胃捻転症候群 2016.8.15
みなさんこんにちは。すっかり更新が滞ってしまってい、前回からなんと3ヶ月も経ってしまいました。もう更新しないのではと思っている方もいるかもしれませんが、これからも細々とやっていきますのでよろしくお願いします。

さて、今回は大型犬を飼っている人は御存知の胃拡張胃捻転症候群という病気です。
この病気は字面どおり、胃がふくらんでねじれてしまうというものです。
胸の深い大型犬でよく見られる病気ですが、ダックスなどの小型犬でもたまに発症することもあるので、大型犬でないからといって油断は禁物です。

ほとんどのケースで、食後に胃に食べ物が入った状態で激しい運動をすることで発症しますが、その背景には自律神経や胃の腹腔内での固定の強度などの要因がからんだ複雑な病態があるようです。

症状としては、胃がガスで膨らみ腹部がパンパンに張ってしまいます。
それによって吐き気が生じるのですが、胃の入口がねじれてしまっているので吐きたいのに吐けず、大量の涎をながします。
また、拡張しねじれた胃によって血液の流れが止まってしまうため、循環障害となって血圧の低下、不整脈といった重篤なショック状態が見られることもあります。
病名からは大したことのないような印象を受けるかもしれませんが、適切な対処を早急に行わないと、非常に死亡率の高い恐ろしい病気です。

大型犬で食後の急変、吐きたそうなのに吐けないといった経過があればこの病気を疑い、されにレントゲンでねじれた胃を確認することで診断します。
大抵は来院時にはすでに状態がかなり悪化しているため、診断と同時に点滴や投薬とった治療を始めます。
治療は胃のねじれを戻すことが第一です。
この病気ではねじれた胃の中でフードが発酵してガスが発生することでより胃が拡張しねじれるので、ねじれを戻すためにガスを抜く必要があります。
しかし、胃がねじれているため、口からはガスを抜くことができないので、皮膚から胃に太い針を刺してガスを抜きます。
その後、胃のねじれが治ったら、胃の中に残ったフードを口からホースを入れて洗浄します。
これで一応応急処置としては終了です。
このまま安定していれば様子を見てもいいのですが、50%くらいは再発してしまいます。
したがって、続いて胃をねじれないように固定する手術を行います。
これは開腹手術になるので、あまりに状態が悪いときは応急処置のみでとどめることもあります。
迅速に適切な治療が行えたとしても、胃の壊死や脾臓の捻転、再還流障害といった合併症によっては助からないこともあります。

上にも書いたとおり、少しでも処置が遅れると死んでしまうことがある恐ろしい病気です。
食後に急に吐きそうにするのに吐けない、ぐったりするといった状況になったら急いで病院に行くようにしてください。
また、大型犬は特に食後1時間くらいは安静にするようにしましょう。

第75回 重症筋無力症 2016.5.6
みなさんこんにちは。ようやく春らしい日が多くなってきたと思ったら、急に寒い日があったりと不安定な気候の日が続いていますね。今年のゴールデンウィークはあまり天候に恵まれず残念でした。

今回は重症筋無力症という病気です。この病気はなんとなく聞いたことがあるかもしれませんが、神経と筋肉の連絡がうまくいかず、筋肉が思い通りに動かせなくなる病気です。
その本態はアセチルコリンレセプターというものに対して、自分の免疫システムが攻撃してしまうという自己免疫性の疾患です。これだけだと何のことだかわからないと思います。
本来ならば脳からでた指令が神経を通って、最終的にアセチルコリンという物質を通して筋肉に伝わります(下図のアニメーションを見てください)。
しかし、この病気になるとこのアセチルコリンを受け取る筋肉の機能(アセチルコリンレセプターの数)が低下してしまい、結果として筋肉が思い通り動いてくれないため、運動ができなくなってしまいます。
動物の場合は、さらに食道の筋肉がうまく働かなくなってしまうことで、食べたものをうまく胃に遅れなくなってしまい、巨大食道症となってしまうことがあります。

症状としては、疲れやすく、食べたものを突然吐き出してしまうというのが特徴です。
常に動けなくなってしまう椎間板ヘルニアなどと違い、運動開始してしばらくは元気なのに、突然へたり込んでしまいます。
発症は比較的若い頃がピークで1歳から3歳くらいまでに初めて症状が見られ始めます。

診断は、テンシロンテストというものを行います。これはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬というものを注射するだけの検査です。
この薬によりアセチルコリンの量が増えるので一時的に筋力が回復し、さっきまで全然立てなかった動物が、突然すたすた歩き始めるようになります。そして、しばらくして薬が切れるとまたへたり込んでしまいます。
このテストに反応があり、さらに血液検査でアセチルコリンレセプターに対する自己抗体が検出できればこの病気と確定できます。

治療は、テンシロンテストと同様のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を投薬します。
それだけだと不十分な場合は、免疫を抑制するためにステロイドも使用することもありますが、基本的に完治する病気ではないので生涯にわたって治療を続ける必要があります。

薬がうまく効いてくれれば、生涯比較的安定して生活することができます。
ただ、巨大食道症による吐出がコントロールできないと、吐いたものが肺に入ってしまう誤嚥性肺炎で命を落としてしまうこともあります。
少しややこしいうえ、あまり出会うことのない病気ですが、もし上の症状と似た状態になったらこの病気を思い出してください。

第74回 胆嚢炎 2016.2.29
みなさんこんにちは。2月も終わり、いよいよ春が近づいて来ると思ったら、突然の大雪が降ってびっくりですね。まだまだ油断はできないよ うです。

さて、今回は胆嚢炎という病気です。胆嚢は肝臓に接する袋状の臓器で、肝臓で作られた胆汁とよばれる消化液をためる働きがあります。食事 をとると胆嚢が収縮し、胆汁を十二指腸に送り出して食べ物を消化します。
胆嚢炎はこの胆嚢に十二指腸の細菌が入り込んでしまうことでおき る病気で、発熱や腹痛、吐き気が生じます。
重度の場合は黄疸が生じ、胆嚢が破裂してしまい急性の腹膜炎となって命を落としてしまうことも あります。
高齢の免疫力が弱った犬や猫で起こりやすい病気ですが、胆石、胆泥の貯留があると胆汁の排泄が妨げられ、十二指腸からの細菌の 逆流がおきやすくなり、若齢でも発生することがあります。

嘔吐や食欲不振といった上部消化管の症状があり、胆嚢に関連する血液検査項目の異常があるとこの病気を疑います。
血液検査の項目異常とし ては、GPT,ALP,GGT,ビリルビン,コレステロールの上昇がよく見られ、さらに白血球数やCRPといった炎症を示唆する項目も同時に上がっている 場合は重症の可能性が考えられます。
血液検査から胆嚢炎が疑われる場合はさらに超音波検査を行い、胆嚢の壁の肥厚や不整が見られれば、ほぼこの疾患と 診断できます。
また、胆石や胆泥がないか、胆管とよばれる胆汁を十二指腸に送る細い管のつまりがないか等もチェックします。
理想を言えば 、細菌感染かどうかを調べるために、胆嚢に針を刺して胆汁を採取するといいのですが、体表から長い針を刺すので、肝臓の血管を傷つけたり 、胆汁の漏出等のリスクがあるので、通常はある程度治療しても改善しない場合に行うことが多いです。

治療は、感染が一番疑われるので、抗生物質の投与を行います。抗生剤はメトロニダゾールやペニシリン系の抗生物質などを組み合わせて投薬 します。
また、肝臓の血流を増やすために静脈点滴を行い、同時に、ウルソデオキシコール酸といった利胆剤や抗酸化剤のビタミンEなども併 用します。
吐き気がある場合は制吐剤を使用し、栄養価の高い食事を与えます。
抗生物質が効いて細菌が減ってくれば、4-5日くらいで症状 は安定してくるはずですが、改善しない場合は、抗生物質の変更や追加で胆汁検査を行う必要があるかもしれません。
重度の場合は胆嚢の壊死 がおきてしまい、胆汁が漏れ出してしまうことがあります。
この場合は急性の腹膜炎となるため、手術により胆嚢を摘出しなければならなくなるこ とがあります。
一度治っても、繰り返すことがあるので、長期的に抗生物質等を使用する必要があります。

胆嚢炎は症状としては食欲不振や嘔吐といったあまり特徴的でないものがメインのため、検査しないとわかりにくい病気です。しかし、悪化さ せると手術が必要になったり、最悪の場合は死んでしまうこともある恐ろしい病気です。発症は比較的高齢になってからのことが多いので、高 齢になったら少しでも体調が悪いと思ったら早めに病院を受診するようにしましょう。

第73回 心タンポナーデ 2015.12.25
みなさんこんにちは。今回が今年最後の更新になると思います。
今年はあまりたくさん更新できませんでしたが、だいぶ掲載している病気も増えてきたので、このまま少しずつ更新を続けていこうと思いますのでよろしくお願いします。

今回は心タンポナーデという病気です。
通常、心臓は心嚢膜といわれる薄い膜で覆われていて、心臓とこの心嚢膜の間に心嚢水という液体が少しだけあることで心臓を保護しています。
しかし、心タンポナーデという病気になると心嚢水の量が増えて心臓が圧迫され、血液を全身に送れなくなってしまいます。
心嚢水がたまる原因としては、腫瘍や出血、感染症などがありますが、原因がはっきりしない特発性のこともあります。

舌の色が白い、呼吸が苦しそうといった心肺の異常を認め、心臓の周りにたまった液体により聴診器で心音がはっきり聞こえない場合にこの病気を疑います。
診断するには心臓の周囲に液体がたまっているのを確認すればいいので、レントゲンや超音波検査を行います。
さらに原因をはっきりさせるには超音波検査や心嚢水を採取して調べる必要があります。

心嚢水の貯留が軽度の場合は、原因を調べて治療しますが、重度の場合は、心臓が圧迫され心不全に陥っているので、原因がなんであれ、まず緊急で心嚢水を抜く必要があります。
心嚢水を抜くには、胸部の皮膚から心臓に向けて針をさします。無理して全部抜こうとすると心臓に針が刺さって危険なので、心嚢膜に穴を空けてそこから液を胸腔内に逃すだけでやめることもありますが、それでも充分心臓の状態は安定します。

治療は、それぞれの原因を取り除くことが第一で、原因さえなくなれば心嚢水はたまらなくなるはずです。
たとえば腫瘍の場合は、手術や抗がん剤、放射線などで腫瘍を取り除きます。
しかし、原因が見当たらない特発性の場合は、治療のしようがないので、心膜切除といって、心嚢膜を外科的に半分くらい取り除いてしまって心臓をむき出しにしてしまいます。
根本的な原因解決にはなりませんが、心嚢膜がなくなることで心臓周囲に液体がたまることはなくなります。

心タンポナーデは、それほど多い病気ではありませんが、突然心不全の徴候を示し、処置が遅れると命の危険にさらされてしまう状態です。
自宅では判断しようがないのですが、急に元気がなくなる、呼吸が速くなる、お腹がパンパンになる、舌の色が白いといった症状は、心タンポナーデを含む重篤な心不全の徴候です。このような場合はとにかく急いで病院に行くようにしてください。

第72回 ケンネルコフ 2015.10.27
みなさんこんにちは。すっかり寒くなってきていますが、札幌でも先日ついに雪が降ってしまいました。小さい頃は雪がふると喜んだものですが、いつのまにか雪がふると憂鬱になるようになってしまいました。

今回はケンネルコフという、呼吸器の病気です。直訳すると、ケンネル(=犬小屋)のコフ(=咳)ということで、ブリーダーやペットホテルなどの犬が多く集まる場所で発生することが多い咳を主症状とする病気です。

この病気はウイルスや細菌、マイコプラズマなどの微生物等が気管支炎を起こすことで発症します。
非常に伝染力が強く、健康な犬でも同じ空間で数時間一緒に過ごすだけでも感染してしまいます。
潜伏期間は4~7日ほどで、ケンネルコフが流行しているドックランやペットホテルから帰ってきてから数日後に突然咳をするようになります。

症状としては、安静時でもみられる乾いた咳(痰が喉にからんような咳)が主体で、基本的にはそれほど体調を悪化させるまでにいたることはありません。
ただ、6ヶ月未満の子犬や10歳を越える老犬のように、免疫力が低下している場合や、咳が出ているのに安静にせず激しい運動等を続けていると肺炎に発展し重篤な状況となってしまうこともありうるので注意は必要です。

診断はレントゲン検査や超音波検査等で咳をするほかの病気(肺の腫瘍や心臓病)を除外することでおこないます。はっきりこの病気だと断定できる方法はなく、症状や最近の犬の多く集まる場所への出入りを考慮して診断します。

治療としては、ウイルス感染に関しては効果的なものはないので自力で治癒するのを待つしかありませんが、細菌やマイコプラズマには抗生物質が有効なので抗生物質を投与します。
過度の咳による気管支の障害を抑えるために気管支拡張剤を併用することもあります。
安静にすることも重要です。

薬をしっかり飲んで、安静にしていれば10日以内に咳はほとんどしなくなります。
もし、全く咳が止まらない場合は、ケンネルコフ以外の病気の可能性があるので、再度レントゲン等の検査を行う必要があります。また、咳が止まってもすぐに投薬はやめず少なくとも3週間くらいは継続します。

ケンネルコフはイメージとしては人の風邪と同じようなもので、悪化しなければさほど恐ろしくはないのですが、患者の隔離をしっかりしないとどんどん病気が広がってしまう厄介な病気です。
普通の家庭で飼われているワンちゃんであれば、しっかり治るまで外出は控えて他の子にうつさないようにする気遣いも重要です。
呼吸器の病気は悪化させると命に関わる状態になってしまうことが多いので、咳が気になる場合は必ず病院を受診するようにしてください。
その際、もし数日前にドックランやペットホテルに行っていたのであれば、事前に動物病院に電話して確認してから行くようにしてください。
もし、この病気の可能性があればおそらく来院時間等の指示があると思います。

第71回 トキソプラズマ症 2015.8.31
みなさんこんにちは。ずいぶん久しぶりの更新となってしまい、いつのまにか夏が終わって、朝晩は冷え込むようになってきましたね。

今回はトキソプラズマという原虫による感染症についてです。
トキソプラズマ症は猫の病気ですが、子猫やエイズを発症した老猫など免疫力が弱い場合でなければ、ほとんど症状はないため、飼い猫で問題となることはあまりありません。
この病気の怖いところは、人への感染があることです。特に妊婦さんが妊娠中に初めて感染すると流産や胎児に悪影響を与える可能性があります。
そこで、今回は猫から人への感染について書いてみようと思います。

トキソプラズマは原虫といって、みなさんがイメージする寄生虫よりも原始的な生き物で、ほぼすべての哺乳類に感染しますが、猫科の動物を基本的な宿主とします。
猫への感染はトキソプラズマに感染した、ネズミや家畜の生肉を摂取することで成立します。
初めてトキソプラズマに感染した猫は、感染してからしばらくは便の中にトキソプラズマのオーシストという卵のようなものを排出します。
このオーシストを排泄するのは猫だけで、他の生物ではトキソプラズマに感染しても筋肉などに住み着いて外に排泄することはありません。これが、猫がトキソプラズマ症の感染源となる理由です。
このオーシストを人が吸入するとトキソプラズマ症に感染し、もし妊婦であればトキソプラズマが胎盤を介して胎児に移行してしまいます。

このように書くと、妊婦さんが猫を飼うことが危険のように思われますが、猫から人へ感染するには一定の条件がそろったときだけになります。
まず、猫がオーシストを出すのは初回感染の後の3週間程度だけです。上にも書いたように、ネズミ等の感染動物と接触させない、生肉を与えないようにすれば感染することもありませんし、もし、すでに以前に感染したことがあればそもそもオーシストを排泄することはありません。
また、胎児への影響があるのは、妊婦さんが妊娠中に初めて感染した場合です。気が付いていないだけで妊娠前に感染していて、すでに抗体を持っている場合は、胎児への影響はありません。
つまり、猫から胎児にトキソプラズマが感染してしまうのは、いままでトキソプラズマにかかっていなかった猫がトキソプラズマに感染したことのない飼主の方が妊娠中に初めて感染し、オーシストを排泄した場合ということです。
比較的有名な感染症なので、猫を飼っている方が妊娠したときに、猫を飼い続けていいのか質問されることがありますが、猫を外に出さず飼っていて、妊娠中に新しく猫を入れたりしなければほとんど問題となることはないということになります。
どちらかというと、猫から感染するより、加熱が十分でない豚肉等の摂取や、庭いじりで地中にいるオーシストを取り込むことのほうが多いようです。

我々獣医が依頼されるのは飼い猫がトキソプラズマに感染しているかどうかの検査ですが、これは抗体があるかどうか血液検査でわかります。少し血をとるだけなので、猫もさほど負担なく検査できます。
結果の解釈ですが、もし抗体陽性だった場合ですが、何年も前の感染ですでに安定している場合はむしろ安心です。上にも書いたとおり初回感染の初期以外はオーシストを排泄することはないのでこの場合はもう心配ないといえます。
ただ、今現在感染初期という可能性もあるので、陽性がでた場合は、2週間程度してからもう一度検査して抗体の量の変動をチェックする必要があります。
陰性の場合は、もちろんこの先も陰性であれば問題ないのですが、この後に感染してしまうと、オーシストを排泄してしまうので、人への感染の危険性が生じてしまいます。
したがって、病院で検査して陰性だった場合は、新しく感染させないために、感染動物と接触させないように外出はさせない、生肉を食べさせないようにする必要があります。

猫を飼育していて、妊娠した場合、猫を触ってはだめだといわれることがありますが、しっかりとした知識を持っていれば、問題なく猫を飼い続けられます。心配な場合は、近くの動物病院に御相談ください。

第70回 食道狭窄 2015.5.29
みなさんこんにちは。日中の気温も20度を越すようになってきて、外を散歩するにはちょうどいい季節になってきましたね。

さて、今回は食道狭窄という病気です。以前、食道拡張症という食道が広がってしまう病気を紹介したことがありますが、この病気はそれとは反対に食道が狭くなってしまう病気です。
食道が狭くなってしまうので、食事が胃まで到達できずに、吐き出されてしまいます。
重症の場合は、水分も通らなくなってしまい、脱水と栄養失調で危険な状態となることもあります。

食道が狭くなってしまう原因としては、生まれつき血管の異常がありその血管により食道が締め付けられてしまっているものや、胃酸や薬などで食道が傷ついてしまい、その部位が炎症をおこして収縮してしまうものがあります。
血管の異常の場合は、授乳中は問題なかったのに固形物を与え始める生後2ヶ月程度で症状が見られるようになります。
一方、食道の損傷の後に生じるケースはどの年齢でもおこりえます。手術中に胃酸が食道に逆流し、それが原因で術後に食道狭窄が生じるといったケースもあります。

診断には、まず吐き出しているのが食道から(吐出)なのか胃から(嘔吐)なのかを判断する必要があります。
嘔吐は、吐く前に予備動作があるのに対し、吐出は何の前触れもなく吹き出すように吐くので、吐く動作をよく観察していれば判断できます。また、食道狭窄の場合は特に食べてから吐き出すまでの時間が数分と短いのも特徴的です。
吐出が疑われたら、バリウム検査を行います。食道が狭くなってしまっているのが確認できればこの病気と診断されます。

治療は狭くなった食道を広げることになります。
先天性の場合は異常な血管を取り除けば、食道自体が傷ついていなければ治ります。
食道の損傷による狭窄の場合は、狭くなった部分の食道を内側から風船のようなもので広げる処置を行います。原始的な方法ですが、比較的安全に行うことができるので動物の負担も少ない治療法です。
ただ、一度広げただけではしばらくするとまた狭くなってしまうことがあり、場合によっては数週間おきに処置を複数回行う必要があることがあります。

嘔吐で病院にかかって、胃腸炎の治療を行っても全く改善しないケースで、実は食道の異常だったということはたまにあります。
上にも書いたように吐き方に違いがあるので、動物が吐いているときは食後どれくらいで吐いたのか、また、吐くときに予備動作があったのかどうかを確認してみてください。
また、猫の場合、薬を錠剤で飲ませたときに食道で止まってしまい、その刺激で食道狭窄がおこってしまうことがあります。猫に薬を飲ませた後は必ず水を5ccくらい飲ませて薬を胃まで流すようにしてあげてください。

第69回 皮膚組織球腫 2015.4.20
みなさんこんにちは。今年は例年より暖かくなるのが早かったですが、少し気温が低い日が続くと、体が暖かいのに慣れたせいか、それほど気温が低くないのにひどく寒く感じていやになりますね。

今回は皮膚にできる腫瘍のひとつである、皮膚組織球腫とよばれる病気についてです。
あまりなじみのない病気ですが、比較的若いうちから発生することの多い腫瘍ですので、まだ若い動物を飼っている方も出会う可能性のある病気といえます。

この腫瘍は、手足や頭部、耳といったからだの端のほうに出来やすい傾向があり、外観としては赤く無毛の盛り上がったものが一般的です。
また、成長が早いのも特徴で、ある日突然数ミリくらいのしこりとして存在していたりします。
腫瘍の大きさは、発見したときからほとんど変化しないことが多いように思いますが、まれにどんどん成長するケースもあります。

腫瘍というと恐ろしいもののように思ってしまいますが、皮膚組織球腫は良性腫瘍であり、これによって命を落とすということはほとんどありません。さらに、多くの場合、何もしなくても自然に退縮してしまいます。
したがって、針をさして細胞を調べて、間違いなくこの腫瘍であると判断された場合はしばらく様子をみることもあります。
だいたい3ヶ月以内に7~8割くらいは完全に腫瘍がなくなってしまいます。
3ヶ月しても退縮しない場合は外科的に切除してしまいます。たいていは手術で腫瘍をすべて取りきれるので、これで完治になります。

このように基本あまりこわくない腫瘍なのですが、上にも書いたように足や耳といったあまり皮膚に余裕のない部位に発生する腫瘍なので、様子をみているうちに取りきれない大きさになってしまう可能性があるときがあります。
したがって発生部位によっては小さいうちに外科的にとってしまうこともあります。

皮膚組織球腫は2歳くらいまでに発生することが多い良性の腫瘍ですが、似たような外観の腫瘍で肥満細胞腫とよばれる悪性腫瘍があります。
外から見ただけではどちらかの判断はつけるのは難しいので、体表のしこりを見つけたときは必ず病院で細胞診をしてもらうようにしたほうが安心です。

第68回 乾性角結膜炎 2015.3.19
みなさんこんにちは。今年は雪解けがとても早いですね。
3月にしてほぼ雪がない上、寒くなくいのはうれしいのですが、いつもとあまりに違った気候だとそれはそれで心配になりますね。

さて、今回は眼の病気です。乾性角結膜炎とは、眼の表面を保護している涙の量が少なくなることで角膜(黒目の表面)や結膜(白目の表面)に炎症が生じてしまう病気で、いわゆるドライアイといわれるものです。
この病気は犬に多い病気で、シーズーやコッカースパニエルなどがなりやすい犬種として知られています。

乾性角結膜炎は免疫異常による涙腺の炎症が原因で、涙腺の炎症が生じることで涙の量が減ってしまいます。
皮膚の免疫異常であるアレルギーを持っている犬で皮膚症状と同時に生じることもあります。
他にも、生まれつきの涙腺形成不全や神経の異常などが原因のこともあります。症状としては、

粘性の目ヤニの増加が見られます。これは、涙が出ないことにより眼が乾いた状態になり、それにより感染や炎症が生じた結果発生します。
また、涙による保護がなくなるので角膜に傷が付いてしまうことも多く、角膜潰瘍を繰り返してしまいます。
治りづらい結膜炎や角膜潰瘍の原因にこの病気が隠れていることもしばしばあります。

この病気を診断するには、涙の量を測る必要があります。涙の量は、シルマー試験紙という、細長いろ紙を目の隅に当てて、目に刺激を与えることでどれくらい涙が出るのかで調べます。
正常だと1分間に涙で試験紙が15mm以上ぬれるのに対して、乾性滑結膜炎だと10mm以下、重症だとほとんど涙が出ません。

涙の量が少なく、かつ目ヤニなどの症状があれば治療が必要になります。
上にも書いたように免疫異常により涙の分泌が減っていることが多いので、1日2回シクロスポリンという免疫抑制剤の眼軟膏を使用することで炎症を抑えます。
涙の量が正常に戻れば自然と角膜や結膜の異常による目ヤニにも減り、キレイな眼に戻ります。
ただ、免疫異常以外の原因で涙の量が減っている場合は、免疫抑制剤を使っても改善しないので、定期的に人口涙液で目が乾かないように点眼が必要になりますが、一日に何回も点眼する必要があり、良好な状態に保つのは結構大変です。

目ヤニが出ていてもなんとなく目薬等で治しては再発を繰り返していたケースで、調べてみると乾性角結膜炎が原因であるということがたまにあります。
目ヤニが出るのは仕方ないと思ってあきらめて何もしていないのであれば、一度涙の量を調べてもらうといいかもしれません。その際、検査の2時間以内に点眼をしてしまうと、正確な検査ができないので、病院に行く前には目薬をささないように注意してください。

第67回 膿胸 2015.2.21
みなさんこんにちは。少しずつ昼の時間が長くなってきて、暖かい日がつづいていますが、そろそろ冬も終わると思うとうれしくなってきますね。

さて、今回は膿胸についてです。膿胸とは、胸腔内に細菌が感染して、膿がたまってしまう病気です。
肺炎も胸部の細菌感染が原因の病気ですが、膿胸は肺ではなく、肺と胸の壁の間の細菌感染が原因です。

この感染は、喧嘩などで歯や爪が胸に刺さって生じる場合や、とがったものを飲み込んで、それが食道を突き破って生じる場合などがあります。
他にも、全身性の感染症の結果として血液を介して胸腔にも感染が生じてしまうこともありますが、これはまれであると思われます。

胸に膿がたまると、肺が圧迫されてしまうので、空気を十分に吸い込むことが出来なくなります。
このことと細菌感染による発熱もあいまって徐々に衰弱していきます。
最終的に敗血症になり全身に感染が広がって命を落としてしまいます。

呼吸が浅く速い、腹式呼吸をしているといった呼吸困難の症状がこの病気を疑う第一歩となります。
呼吸困難の原因として他にも、肺炎や心疾患などがあるので、レントゲンや超音波検査で胸に液体がたまっていないかどうかを調べます。
胸に液体がたまっていることが確認できたら、心臓病や低タンパク血症、猫伝染性腹膜炎といったウイルス病などと区別するためには胸に針をさして、胸水を調べる必要があります。
膿胸の場合は白濁した粘度の高い腐敗臭のする液体がとれて、この液体を顕微鏡で見ると細菌や好中球などの白血球が認められます。

治療は細菌を殺すために抗生物質の投与が必要になります。
膿胸は比較的進行が遅いため症状が出て病気を発見したときには重篤な状況になっていることが多いので、必ず細菌の種類と抗生物質の感受性を調べ、もっとも効果の期待できるものをしっかり投与します。
また、膿により肺が圧迫されているのを解除するために胸水を抜きます。これは、針をさして抜くこともできるのですが、膿胸の場合は一日に数回液を抜いて、さらに胸腔の洗浄も必要になるので、胸腔内にチューブを設置して、そこから排液と洗浄を行います。
抗生物質が効果を示せば、徐々に細菌も減っていき、膿の貯留も少なくなっていきますが、少なくとも1ヶ月くらいは抗生物質の投与の継続が必要です。

胸水がたまる疾患のほとんどは予後がよくないのですが、膿胸はうまく治療できればその後元気になる可能性が高い疾患です。そのためにも早めの治療が重要になります。呼吸が速い、お腹で呼吸しているといった異常をみつけたらすぐに病院で見てもらうようにしましょう。

第66回 歯の損傷 2015.1.23
みなさん、ずいぶん遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、今回は歯の損傷についてです。そもそも歯は非常に硬い組織なので、普通に食事をしているだけでは、そうそう折れることはありません。
しかし、硬いおもちゃや石などを強く噛んでしまったときに折れたり、縦に割れてしまうことがあります。
犬歯と第1後臼歯(一番大きい奥歯)が折れてしまうケースがほとんどです。
また、それほど硬くないおもちゃやフードでも、咬んだときに奥歯の上の歯と下の歯の隙間に挟まってしまうと、上の歯が外側にたわみ、縦に割れてしまうこともあります。

歯が折れてしまうのはとても痛そうな気がしますが、意外とあまり痛がることはなく、出血等の症状もないため、折れてしまったことに気が付かないことがほとんどです。
多くは病院で健康診断のときなどに偶然発見されているのではないかと思います。

治療としては、損傷が歯髄まで達しているかどうかで変わってきます。
折れている歯を見て、白い歯の組織しか見えてないのであれば歯の表面が欠けただけなので特に治療は必要ありません。
しかし、ピンク色の組織が見えている場合は損傷が歯髄まで達しており、細菌感染等が生じる可能性があるので、何かしらの対応が必要です。
折れてから時間がたっていないのであれば、人の歯医者で行うようなかぶせ物をすることもありますが、時間がたっているのであれば、かぶせ物をすることで逆に細菌を封じ込めてしまう可能性があるので折れてしまった歯を抜いてしてしまいます。
犬や猫は、人のように抜歯をしても歯列がおかしくなることはあまりないので、抜歯した部分にインプラント等をする必要はなく、基本的には抜いたらそのままで大丈夫です。

原則としては上記のように何かしらの治療が行われるべきなのですが、実際のところ何年も歯髄の露出を放置していても特に大きな異常が生じないケースも少なくありません。
かぶせ物をするにも抜歯するにも全身麻酔による処置が必要なので、年齢や病気なのどの状況によっては、歯が折れてもとりあえず様子をみて、もし問題が起こればそのとき対処するのもありだと思います。

私の印象としては、牛のひずめを咬むおもちゃとして与えているケースでよく歯の損傷が起きているように思います。他にも、小型犬に対して大型犬用の硬いおもちゃを与えているケースでも歯の損傷がおきやすいです。
上に書いたように、必ずしも硬いものだけが損傷の原因ではないのですが、歯の磨耗や損傷の機会をできるだけを避けるというためにも、それらのおもちゃ等は与えないほうがよいのではないでしょうか。

第65回 巨大食道症 2014.12.13
みなさんこんにちは。今年も残すところあと少しになりました。この時期は人だけでなく、犬や猫も体調を崩しやすいので、日々の体調管理に御注意ください。

今回は巨大食道症です。この病気になると、食道が拡張してしまい水や食物を胃にうまく運べなくなってしまいます。
食道にとどまった物は、胃に到達せず最終的には吐き出されてしまいます。

この巨大食道は、特にはっきりとした原因もなく突然発症する場合と、他の病気に伴って生じる場合があります。巨大食道を生じさせる病気としては、重症筋無力症や免疫疾患、甲状腺機能低下症があげられます。

巨大食道症の症状として特徴的なのが吐出といわれるものです。
吐出とは食べたものを吐き出してしまうことで、普段よくみられる嘔吐とは結果は同じですがその過程が異なります。
嘔吐は胃に入ったものを胃や横隔膜の筋肉を使って吐き出すのですが、吐出は胃よりも前の段階にあるものを無意識に吐き出してしまうものです。したがって、嘔吐のときに見られるような吐く前の悪心による流涎や腹部の激しい蠕動による前段階はなく、何の前触れもなくいきなり吐き出すことになります。
重度の食道拡張では、水分や食物を摂取できず脱水し栄養失調となり、吐いたものを誤嚥して、肺炎になってしまうことがあります。巨大食道症の死因の大半はこの誤嚥性肺炎です。

診断はレントゲンを撮ることで行います。単純なレントゲンでもはっきりすることが多いですが、バリウムを飲ませてみるとより食道の拡張がはっきり観察されます。
通常食道に入ったバリウムは1、2秒で胃に到達するのですが、巨大食道症の場合は数分後にレントゲンを撮ってもまだ食道内にとどまっていることがあります。
食道の拡張が確認できたら、原因となるほかの病気がないかを調べます。重症筋無力症や免疫疾患ではそれぞれの疾患に特有の抗体の有無を調べ、甲状腺機能低下症はホルモンの検査を行います。

治療は、原因となっている疾患があればそれを治療することで改善しますが、原因がはっきりしないときは根本的な治療法はありません。したがって、食道に食物が滞留しないよう対策を行います。
この対策というのは、原始的な方法ですが、食後15分くらい後ろ足だけで立たせておいて重力で胃に食べ物を送り込むというものです。食事も少し高めの台に置くことによって、立った姿勢で食事を取らせます。
ほかには、食道炎予防に胃酸抑制剤や、食物の通過を促すような薬を使うこともあります。肺炎になった場合は抗生剤を使用します。

うまく付き合っていけば、長期的に良好な生活も行える病気ですが、常に肺炎の危険にさらされているので早めに診断することが重要です。
この病気の診断で大事なのは嘔吐と吐出を早い段階で区別することです。上にも書いたように、吐出は何の予備動作もなしに食べ物を吐き出します。もし食後に未消化の食べ物をよく吐くというような経験があるのであれば、一度病院で検査をうけてみてはどうでしょうか。

第64回 急性腎不全 2014.11.15
みなさんこんにちは。札幌ではいよいよ本格的に雪が降り始めてきて、この数日であっという間に雪景色になってしまいました。このまま根雪になってしまうのでしょうか?

さて、今回は急性腎不全です。慢性腎不全は以前解説したことがありますが、今回の急性腎不全は腎臓の病気という点では同じですが、その原因や経過は全く異なるものです。
高齢になると発症する慢性腎不全は比較的ゆっくりと進行するのに対し、急性腎不全は急激に進行します。
重度の腎臓の機能不全により体内の老廃物を尿として体外に出せず、体に毒素が蓄積してしまい数日で死亡することもあります。

急性腎不全の原因としては、腎臓そのものの異常と、それ以外の異常に分けることが出来ます。
腎臓の異常としては、感染や自己免疫疾患による病気によるものと、薬や化学物質といった腎毒性のある物質の摂取によるものがあります。
腎毒性のあるものとして、バッテリーの不凍液であるエチレングリコールが有名ですが、ほかにも抗生物質や抗がん剤、ブドウ(犬)やユリ科植物(猫)などが上げられます。
腎臓以外の異常としては、心臓病などによる低血圧や血栓症、熱中症といった病気が腎臓にも影響するケースがあります。
しかし実際のところ毒物を摂取した場合の以外は、原因がはっきりしないことがほとんどです。

急性腎不全でみられる症状は急性の嘔吐や食欲不振といったよくある体調不良の徴候で、これといった典型的な症状がないので、自宅でこの病気を疑うことは難しいと思います。
腎機能が高度に傷害されると尿が作られなくなり(無尿)、ショック状態で昏睡から死亡に至ることもあります。

診断は、血液検査で腎臓の機能を測る、尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Crea)の上昇をみます。
この2つが高いだけで急性腎不全とは言えませんが、腎臓に異常があることははっきりします。
追加で電解質やリン、カルシウムを測定し、超音波検査などで腎臓の構造をチェックすることで腎不全と診断します。
症状が1週間以内で急に生じたのであれば急性腎不全となり、数ヶ月前から少しずつ痩せてきたというのであれば慢性腎不全となります。

治療は、はっきりと原因がわかっている場合は原因の治療をしますが、はっきりしないときは原因を調べつつ、今ある異常を治療します。
メインとなる治療は輸液になります。この時点で尿の生成があればこのまま輸液と続けますが、尿が全く作られていないようなら、利尿剤等で腎臓を刺激して尿を作らせます。
輸液をしながら異常な電解質やリンなどの補正を行います。
原因が不明でも、数日間点滴を続けていくと、腎数値が下がってきて元気に退院していくこともあります。
この場合、退院後もマメに血液検査を行い、再度悪化しないかどうかを注意深く観察する必要があります。

急性腎不全は、かなり予後が悪い病気です。原因にもよりますが、治療の成功率は50%とのデータもあり、特に尿が作られていない場合は数日で亡くなってしまう可能性がかなり高いです。
しかし、最初の数日を乗り切って、腎臓が回復してくれば元気になる可能性も十分あります。
大事なのはいかに早く治療を始めるかです。急性腎不全は若いときでも突然発症する可能性があり、前日まで元気だったので様子を見てしまい手遅れになってしまうことがあります。
どの病気のときも同じですが、何かおかしいと思ったらなるべく早く病院に行くようにしてください。

第63回 腸閉塞(異物) 2014.10.14
みなさん、こんにちは。10月になってすっかり寒くなってきて、先日は雪虫が飛んでいるのを発見しました。もうすぐ長い冬が来ると思うと少し憂鬱になってきますね。

さて、今回は異物による腸閉塞です。これは非常に単純な病気で、消化できないものを飲み込んでしまい、それが腸に詰まってしまうというものです。
文章でみるとたいしたことないように思えますが、腸閉塞になると頻回の嘔吐による脱水や、腸管破裂による腹膜炎により生命の危機にさらされることになります。

犬や猫の場合、よくみられる閉塞物として果物の種や布製品、おもちゃのかけらなどがあげられます。小型犬や猫の場合は、ピーナッツなどの非常に小さいものでも、閉塞の原因となってしまうことがあります。
このように、腸閉塞の原因となるものは身の回りにいくらでもあり、ほとんどがそれを摂取した現場を見ていないため、異物による腸閉塞とは思わず来院し、思いがけないものが詰まっていたりします。
したがって、我々獣医師は吐き気を訴える動物を診るときは、たとえ飼主のみなさんが変なものは飲み込んでいないといっても、必ず最初に異物による閉塞の可能性を考える必要があります。というのも、腸閉塞以外の胃腸疾患は、数日診断が遅れてもあまり問題ないですが、異物による閉塞はすぐにでも外科的な処置をしないと死んでしまうからです。
特に若い動物で、突然頻回の嘔吐が見られる場合は要注意です。

診断は意外と厄介です。レントゲンにうつるような石や金属であれば簡単ですが、布やプラスチックなどはレントゲンではわかりません。このような場合は超音波検査で腸の液体の貯留による拡張を探したり、バリウム検査でバリウムの流れを確認しますが、はっきりと閉塞と言い切れないケースがよくあります。
時には、確実に異物があるとは確信できない状況で試験的に手術をすることもあります。
異物がなかった場合無駄に手術をしたように思えますが、異物がなかったとしても開腹することで早期に病気の診断を行えるので手術自体全く無駄になることはありません。疑わしければ思い切って手術するほうがよい結果になることがほとんどだと思います。
ただ、実際のところ手術をして何もないと、獣医師としてはとても申し訳ない気持ちになってしまいます。

手術自体は、腸を切開して異物を取り出すだけなのでさほど難しくないのですが、閉塞していた腸が壊死を起こしていると広範囲に腸の摘出が必要になり少し大変です。
たいていは異物を摘出すると数日で元気になりますが、腸の大部分損傷が生じた場合は回復に時間がかかることもあります。

異物による腸閉塞は病気というよりも事故に近いものだと思います。動物は食べていいものとだめなものの区別はつきませんし、予想外の行動で異物を摂取してしまうこともあります。
異物の摂取は基本的には飼主の皆さんの責任です。できる限りそのようなことがおこらないようにいま一度、生活環境の見直しをしてみてください。

第62回 褥瘡(じょくそう) 2014.9.5
みなさんこんにちは。しばらくお休みをいただいていましたが、たまっていた仕事も片付いてきたので、今月からまた再開したいとおもいます。相変わらずの不定期更新となりますが、たまにのぞいてみてください。

さて、今回は褥瘡についてです。褥瘡というのはいわゆる床ずれと呼ばれるもので、同じ体勢のままでいることにより皮膚の一部が長時間圧迫をうけ、その部分の血行が悪化し、壊死してしまうものです。
人では寝たきりの患者で問題となりますが、動物でも同様に寝たきりになると褥瘡ができてしまいます。

動物の場合、褥瘡が見られるのは中~大型犬のことがほとんどで、小型犬や猫ではあまり見られません。
褥瘡は肘、肩、腰、膝といった骨ばっている部位にできやすく、なんだか皮膚が赤くなっているなと思っていたら、皮がべろっとはがれてしまい、筋肉や骨が見えるくらい深い損傷が生じます。
一般的な傷に比べるとかなり深い損傷となることが多いのですが、その痛々しい病変の割にはあまり動物は痛がっていないことが多いように思います。
体重や運動障害の程度にもよりますが、同じ体位で半日も全く動いていないと深部では筋肉や脂肪の壊死が生じ始めます。そして、数日してから表面の皮膚ごと脱落します。
通常は筋肉や皮下脂肪がクッションとなり圧迫を分散してくれるのですが、寝たきりの動物の多くが筋肉や皮下脂肪が減っているためより褥瘡ができやすくなっています。

褥瘡ができたしまった場合、創部に感染が生じないように傷を清潔に保ち、これ以上負担をかけないようガーゼ等で保護します。
また、褥瘡部に負担をかけないようにしていると、今後は別の部位に褥瘡ができてしまうので、定期的に体位をかえたり、寝床をクッション性が高く、なおかつ通気性のよいもの変更します。
感染がおきなければ褥瘡自体は自然に回復しますが、褥瘡が起きてしまうような寝たきり状態が改善されない限り、油断するとすぐに新しい褥瘡が生じてしまうため、完全に予防するのは困難といえます。

このように褥瘡は、ひとたび発生しやすい状態になると予防するのが難しいです。病気で寝たきりになってしまうのは避けようがないことですが、太りすぎで足腰を悪くして寝たきりになるのは日ごろの体重管理で予防することは可能です。
中型以上の犬を飼っている方は、将来のためにも日ごろから体重の増加を防ぐようにしてあげてください。

第61回 フィラリア予防 2014.5.23
みなさんこんにちは。いまさらですが、当院は先月の30日で開院3周年となりました。
このページの更新頻度もどんどん遅くなってきていますが、これからも初心を忘れずにがんばっていこうと思います。

さて、今回はフィラリア予防についてです。前にフィラリアについて書いてなかった?と思われる方もいると思いますが、大丈夫です、ちゃんと覚えています。今回は、その中でも、ちょうどこれからがシーズンの予防について説明します。
フィラリア予防は狂犬病ワクチンや混合ワクチンのように年1回注射を打てば完了というものではなく、春から秋にかけて毎月1回投薬が必要で、なぜそのようにするか知らない方も少なくないと思います。
なんとなく病院で指示されているから薬を投与していて、原理を理解していないために、もう涼しいからといって最後の月の投薬を自己判断でやめてしまいフィラリア感染を起こしてしまうというケースがあります。
そこで今回は、なぜ月に1回決められた期間投薬をする必要があるのかを解説していきます。

まず、フィラリア症については、このページの下のほうの第48回にありますのでそこを参照ください。
このフィラリアという寄生虫による心臓病を防ぐために毎年病院で薬をもらっているはずです。
フィラリアの予防薬は、ミルベマイシン、イベルメクチン、モキシデクチンといった成分で、錠剤以外にもおやつタイプの製品があります。
最近はいろいろな種類のものがありますが、フィラリア予防という点ではどれを使用しても効果は一緒です。
これらの薬は、いわゆる駆虫薬でフィラリアの幼虫のみに有効となっており、成虫には効果がありません。

ここで、フィラリアの感染経路をもう一度おさらいすると、蚊の中の幼虫(L3)が、蚊の吸血によって動物の皮膚の下に入り込み、そこから筋肉に移動します。筋肉の中で、大体3ヶ月くらいかけて成長し、成虫(L5)として血管の中に入っていきます。
つまり、フィラリア予防薬は筋肉の中にいるうちにフィラリアを駆除する薬なのです(つまり、予防薬というより駆虫薬といったほうが正しいことになります)。
理論的には3ヶ月に一度でも大丈夫そうですが、駆虫漏れや3ヶ月よりも早く成長すること虫もいることを考えて、1ヶ月ごとに筋肉に侵入した幼虫を退治しているというわけです。
ここで、別に幼虫にこだわらなくても成虫を退治すればいいと考える方もいるかもしれません。
確かに成虫の駆除薬も存在しますが、血管の中に侵入した成虫が死ぬと、死体が血流に乗って詰まってしまったり、死んだ虫から毒素がでてアレルギーを起こすことがあり結構なリスクがあります。
一方、筋肉内の幼虫を駆除した場合はこのような副作用のリスクが低く安全に予防することができます。

次に、薬の投与期間の話ですが、一般的には蚊が出はじめた月からいなくなった月の翌月の間が投薬期間となります。
上にも書いたように、フィラリア予防薬はフィラリア幼虫の駆虫薬で、投与1ヶ月前に感染した幼虫を駆除するものなので、少なくとも蚊がいなくなったのを確認してから1ヶ月以内にもう一度投薬する必要があります。
つまり、最後の投与をするときはすでに蚊はいなくなって、この後は感染する危険性がなくなった時期となります。
この時期はすでにだいぶ涼しいのでついついもう投薬は不要と勘違いしてしまいがちです。
投与期間は札幌では5月末から10月末までの6ヶ月ですが、本州ではさらに長い期間必要になります。

このようにフィラリアの薬は決められた期間、定期的に投薬する必要があります。
いままでなんとなく言われるがままに投薬していた方も、なぜそのように投薬する必要があるか理解していただけたでしょうか。
最後を忘れてしまうとそれまで予防していても意味がないというのがわかってもらえたでしょうか。

第60回 狂犬病 2014.4.15
みなさんこんにちは。ようやく札幌も暖かくなってきて、外を歩くのも気持ちいい季節になりました。冬の間に部屋の中でごろごろしていて太ってしまった犬も人も、これから楽しく散歩をしてダイエットにはげんでください。

さて、今回は狂犬病についてです。狂犬病は人にもうつる病気なので犬を飼っていない方でもご存知だとは思いますが、日本ではこの病気は制圧されているので、実際に身近でこの病気の発生を見聞きしたことはないと思います。

狂犬病は、ウイルスにより伝播する伝染病で、ほとんどの哺乳類に感染し、発症すると100%死亡してしまうという恐ろしい病気です。
人へは犬からの伝染が多いのですが、コウモリやキツネなどの野生動物からも感染することはあります。
幸い、日本は狂犬病清浄国といって、1957年以降国内での狂犬病は発症していないため、あまりこの病気の恐ろしさを感じることはありませんが、これは日本が島国で近隣の国からの動物の移動がないことと、港湾の検疫で動物の出入りをしっかり管理しているからで、世界中の多くの国ではいまだ狂犬病を制圧できずにいます。

狂犬病ウイルスは、咬傷などにより体内に侵入し、神経を通り脳に移動していきます。
脳にたどり着いたウイルスにより脳炎が発症し、痙攣をおこし死に至らしめます。その過程で、幻覚、攻撃性、狂水症などの症状が現れます。
狂暴化した犬がこの時期に他の動物を咬むことで、唾液中に含まれるウイルスが伝播されていきます。
感染から発症までは咬傷部位と脳の距離により時間が異なり、遠い位置であるほど発症までの時間が長くなります。
発症すると有効な治療法はありません。

治療法がないのですが、幸い有効なワクチンがあるので、年1回のワクチン接種で狂犬病の予防をすることはできます。
一般的に狂犬病予防ワクチンというのは、犬のために接種していると思われがちですが、実は法律的には人への狂犬病ウイルスの感染を予防するために、91日齢以上のすべての犬に対して打つことを義務付けているワクチンになります。
もちろん、結果として犬が狂犬病になるのを防ぐことにはなるのですが、混合ワクチンのように犬自体を守るためにうつものとは意味合いが違うのです。

日本に住んでいて、狂犬病ワクチンを打たなかったからといって、ウイルスに感染する可能性は今のところほぼありません。
しかし、人の社会で生きる以上、法律には従わなければなりませんし、ドックラン、ホテル等での証明書の提出が求められることもあります。
また、もし人を咬んでしまったときにワクチン接種していないと狂犬病でない証明書を提出する必要があり非常に面倒ですので、犬を飼う人の責任としてワクチンを接種するようにしていただきたいと思います。

第59回 アジソン病 2014.3.9
みなさんこんにちは。ようやく冬も終わりが見えてきましたが、今年は北海道よりも本州のほうが雪は大変だったようです。
北海道は例年より少なかったような気もしますが、そのかわり気温は低く寒かったですね。

さて、今回は聞きなれない病気かもしれませんが、アジソン病という内分泌疾患です。
アジソン病は副腎というホルモンを作り出す臓器が働かなくなり、ホルモンが不足した状態となる病気です。
副腎皮質機能低下症とも呼ばれます。だいぶ前に副腎皮質機能亢進症というものを説明したことがありますが、この病気はそれとは逆の病気です。

副腎で作られるホルモンは、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドなどがあり、体内の糖分やミネラルを調整していますが、これらのホルモンがなくなることで体にさまざまな異常が生じます。
副腎の機能が低下する原因は、免疫が関係しているようです。
機能低下は徐々に進行していき、ある一定ラインを超えるまではあまりはっきりした徴候が見られませんが、ある日突然急激に体調の悪化が生じます。
これをアジソンクリーゼといって、放置すると死んでしまうこともある恐ろしい状態です。

アジソン病の症状としては、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢といったあまり特徴のない症状です。
前述したアジソンクリーゼになると、ショック状態となり、低血圧、低血糖になり全く動けなくなってしまいます。
軽度の場合は、嘔吐や下痢に対する対症療法で一時的に回復するので、初期の段階ではアジソンは見逃されてしまうことがよくあります。
あまり特徴のない身体症状とは異なり血液検査では、腎数値の上昇や、ナトリウム低下、カリウム上昇、低血糖など特徴的な異常が認められます。
この血液異常があれば、だいたいはアジソン病を疑うことになるのですが、まれにこれらの数値の異常を生じないケースもあり、その場合はアジソン病を疑うことが難しくなります。

この病気を疑うことができれば診断は簡単です。ACTH刺激試験といって、副腎から放出されるホルモンを測定し、ホルモンが少ないことを確認するだけです。
これは血液検査ですので、動物には負担をかけないでおこなえます。
このように、アジソン病は診断は簡単なのですが、アジソン病を疑ってACTH刺激試験までもっていくのが難しいといえます。

治療は、これも単純です。ホルモンが少ないので、ホルモンを補充すればよいだけです。
フルドロコルチゾン(商品名コートリル)という薬を内服します。
たまにこの薬だけでは十分な効果がないことがあり、その場合はさらにヒドロコルチゾン(コートリル)も追加します。
薬で十分な量のホルモンが補充されると、これまでの調子が悪かったのがうそのように元気になります。
ただ、残念ながら一度喪失した副腎の機能は回復しないので、生涯にわたって投薬は必要になります。
しかし、しっかり投薬を続けていれば、この病気になっても寿命を全うすることができます。

アジソン病は、ストレスホルモンと呼ばれるコルチコイドが分泌されなくなる病気のため、トリミングやホテルといったストレスがかかった後に悪化することが多いのも特徴です。
日ごろから体調を崩しがちで、ストレスがかかった後に顕著に元気がなくなるようでしたら、一度病院で血液検査をしてみるといいかもしれません。

第58回 猫エイズ 2014.2.4
みなさんこんにちは。巷ではインフルエンザとノロウイルスが猛威を振るっているようです。私はどちらにもかかったことがないのですが、相当しんどいというのはよく聞きます。できればこれからも避けていきたいところですが、目に見えないだけに完全に防ぐのは難しいのが悩ましいところです。

さて、今回は猫のウイルス感染症である猫エイズです。
エイズについてはおそらくほとんどの方がなんとなくこわい病気といったイメージを持っていると思います。
ざっくりというとエイズウイルスによって免疫細胞が破壊され、重度の免疫不全に陥ってしまうという病気です。
免疫というのは、我々生き物が外部からの攻撃に対して自分を守るためにとても重要な機能のですが、当たり前にありすぎてその重要性を実感することはなかなかできません。
しかし、エイズのように免疫系が破壊される病気になったときに、いかに常日頃外部からの攻撃を受けていたのかを実感します。
ほんの些細な傷や、普段から口の中にいる細菌によって簡単に感染が生じてしまい、なかなか治らなくなってしまいます。

エイズウイルスの感染は、主に喧嘩による咬傷によって生じます。したがって、去勢をしていない自由外出の雄猫が喧嘩によって感染することが多いようです。
同居猫や親子猫でも、密度の高い接触を繰り返しているうちに感染してしまうこともあります。
なお、人へ感染することはありません。

症状は、感染した直後は、少し熱っぽくなったりしますが、たいていはほとんど症状を示さずに、ウイルスのキャリアー(保有猫)となります。
このキャリアーのときに、他の猫へ感染させてしまいます。そして、高齢になったときや過度のストレスがかかったときに、ウイルスが増殖をはじめ、免疫細胞を破壊することによりエイズの症状が現れてきます。
よく見られるのは口内炎です。他にも日和見感染といって通常であればなんでもない感染症にかかってしまい、肺炎などを起こしてしまいます。

診断は、血液中のウイルス抗体を調べます。これは簡易キットがあるので、採血するだけで10分程度でわかります。
ただ、3ヶ月くらいまでの幼少期であると、実際はエイズウイルスには感染していないのに、親猫からもらった抗体が反応して陽性の判定が出ることもあります(偽陽性)。
このような場合は6ヶ月くらいのときに再測定すると陰性に変わっていることもあります(陰転化)。

治療法ですが、ウイルスを完全に消滅させる方法は残念ながら今のところありません。
エイズによる症状に対しての抗生物質やインターフェロンなどの投与で、一時的に症状を抑えることはできます。
ただ、エイズウイルスに感染していても、必ずしも発症するとは限りません。生涯無症状で過ごす猫もいるので、あまり悲観的になる必要もありません。

ウイルス性の病気なので、他の猫にうつさないようにするのも重要です。基本的にはウイルス陽性の猫とウイルス陰性の猫は一緒に飼わないほうがいいです。
どうしても一緒に飼わなければならなくなってしまった場合は、陰性猫にエイズのワクチンを打つことで伝播を防げます。ただ、ワクチンも100%予防になるわけではないので、ある程度のリスクが残ります。

結局は確実な予防や治療がないといえます。したがって、大事なのは陽性の猫と接触させないということになります。エイズに感染する可能性を考えると、猫は室内で飼うのがいいのではないでしょうか。

第57回 乳腺腫瘍 2014.1.14
あけましておめでとうございます。だいぶ正月から時間はたってしまいましたが、今年1回目の更新です。今年もがんばって月1回のペースは守っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

今回は乳腺腫瘍です。いわゆる乳がんと呼ばれているもので、人のそれとは犬猫では悪性の割合や腫瘍の挙動など細かい点に違いはありますが、悪性の場合は遠隔転移を起こして命を落としてしまうおそろしい病気という点では同様のものです。

乳腺腫瘍は、乳腺にできる腫瘍なので、犬や猫では腹部の前から後までの広い範囲で発生します。
7歳くらいから発生率が一気に高くなり、よほど太ってない限り、比較的はっきりとしたしこりができるので触診で容易に発見することができます。
しかし、腫瘍そのものは、あまり痛みなどはなく、また普段はあまり見ることがない腹側にできるので、気がついたときにはずいぶん大きくなってしまっていることも珍しくありません。

性ホルモンによる影響が発生に関与しているため、若いときに避妊手術で卵巣を摘出しておくとその発生を抑えることができるようです。
2回目の発情までに避妊手術をすると発生率は低くなるようですが、それ以降の避妊手術では発生そのものに対する抑制効果はないようです。

腫瘍というのは良性か悪性かが予後判定に重要ですが、犬の場合はその割合は半々で、猫の場合は8~9割は悪性といわれています。
良性の場合は、放置していてもあまり大きくならず、転位もしないので命に関わることはありません。
一方、悪性の場合は、どんどん大きくなっていき、肺や脳、腹部リンパ節などに転移していきます。
したがって、早期に良性悪性を確定する必要があります。
しかし、外見から良悪の判断をすることはできません。3cm以上のものはほぼ悪性であったとの報告もありますが、3cm以下なら良性といえるわけではありません。
また、腫瘍に針をさして細胞を見る細胞診では、かなり悪性な場合は悪性と言い切れますが、微妙な場合は細胞診では良悪の判定できません。
したがって、確実に判定するためには腫瘍を手術で摘出して、組織検査をおこなう必要があります。残念ながら外科手術なしで確実な判定を得られないのが現状です。

手術は、腫瘍そのものを取るだけでなく、周囲の乳腺も広い範囲にわたって摘出します。
前のほうと、後のほうで血液やリンパ管の流れが分かれるので、前、後、右、左と領域に分けてブロックごとごっそりと摘出します。
どのように摘出するかは腫瘍の大きさや数、動物の年齢などで決定するので一概にどうとは言えませんが、基本は大きくとるのでかなり大きな傷口になります。

手術で摘出後、良性であった場合はそれで安心、追加の治療は不要です。
残念ながら悪性であった場合は、転移の可能性が考えられるので、定期的に転移のチェックを行います。
胸部レントゲンや、腹部リンパ節の超音波検査を行います。
すでに転移が疑われる場合、または後から転移が生じた場合は、抗がん剤の投与を検討します。ただ、抗がん剤の効果は限定的であるので、転移がある場合は、近い将来命に関わる状況となる可能性が高いといわざるを得ません。

乳腺腫瘍が発生する犬や猫は、大半が避妊手術を実施していないため、同時に避妊手術を行うこともあります。上にも書いたように、この時点で手術をしても今後の腫瘍の発生を抑えることはできませんが、卵巣や子宮の疾患を未然に防ぐことができるので、健康状態がよい場合は避妊手術を同時に行うことが多いです。
これは私の経験的な印象ですが、乳腺腫瘍ができる個体は、卵巣の腫瘍なども併発していることが多い傾向があるように感じています。

乳腺腫瘍は、比較的よく遭遇する腫瘍ですが、腹部にできるのでなかなか気がつかないで放置してしまうことがよくあります。日常的に、お腹を触って早い段階で発見できるようにしてあげてください。

第56回 血小板減少症 2013.12.6
みなさんこんにちは。あっという間に12月で、今年もあとわずかですね。いまだ根雪になっていない札幌ですが、いつ大雪が降るのかこわごわしている今日この頃です。

さて、今回は血液の病気です。血小板というのは、血液中の成分のひとつで、外傷などで血管が破けたときにその部分に集まって破けた部分に栓をして出血を止める働きをします。
この血小板がすくなくなってしまう血小板減少症では、大したことのない怪我をしても、いつまでも出血が続いてしまいます。

血小板は骨髄内で産生されて、その後血液中に放出され、血管の内側の細胞が破壊されたときに出血を止めてくれます。
血小板減少症はこれらのどれかの過程、すなわち骨髄内での産生低下、血液中の血小板の破壊、過剰使用による枯渇により生じます。
産生低下は骨髄内の腫瘍、破壊は自己免疫性疾患、過剰使用は播種性血管内凝固症候群(DIC)など、それぞれ原因となる疾患があります。

この病気の症状は、血液が固まらなくなるので、紫斑と呼ばれる内出血が体のいたるところに発生します。
また、微小な傷や採血部位の出血が止まらず血腫ができたり、手術中に予想外の大量出血が生じます。
血小板減少症が生じていても大量に出血しない限り、比較的動物は元気なので、フィラリアの検査などで採血したときに血が止まらないことではじめて気がつくことが多いです。

診断のために血液検査で血小板数の減少を調べます。
血小板は通常1μl(1000分の1ml)中に60万個ほどあるのですが、これが10万を切るとまだ症状はないのですが減少症と診断され、さらに5万を切ると血が止まらなくなって上に書いたような症状が認められるようになります。

治療は、その原因によって異なりますが、自己免疫性血小板減少症の場合は、自分の免疫細胞が血小板を破壊しているので、高用量のステロイドや、シクロスポリンやアザチオプリンといった免疫抑制剤が使用されます。
DICのように使用が亢進している場合は、新鮮血輸血による血小板の補充が必要になります。この消費が亢進している場合は、状況としてはよくない場合が多く、高率で致死的な経過をたどってしまいます。

血小板減少症はそれほど良く見かける病気ではないですが、この病気のように血液の凝固不全を目にすると、普段当然のように血が止まるのがいかに重要なことか理解できます。
ほんのわずかの怪我でも重度の貧血になるくらい出血が続くのをみると、体というのはよくできていると感心してしまいます。

第55回 肺水腫 2013.11.2
みなさんこんにちは。いつの間にか11月になって、今年もあと2ヶ月を切りました。なんだか最近時間が過ぎるのが早く感じるのは、年のせいなのでしょうか?

さて、今回は肺の病気です。
肺水腫というのは、読んで字のごとく肺に水がたまってしまう病気ですが、肺の病気というよりは心臓が原因で肺に異常が生じる病気です。
そもそも肺は血液中の二酸化炭素を排泄し、酸素を送り込む働きをする器官で、全身を回ってきた二酸化炭素の多い血液を右側の心臓から受け取り、酸素を送り込んだ血液を左側の心臓に送ります。そして、この左側の心臓から全身へと血液が送り出されます。
このように血液はある一定方向にぐるぐる循環していますが、左側の心臓に異常があると、肺から送られてきた血液が全身にうまく送り出せなくなります。
そうなると肺に左側の心臓に行くはずの血液が停滞し始めます、
これが重度になると、肺の空気をためている領域(肺胞)に血液の成分が漏れ出てしまいます。
この状態が肺水腫です。

肺水腫になると、おぼれているような状況になり、空気を吸っても酸素の交換ができず酸欠になり、死に至ります。
肺水腫の徴候としては、浅く速い呼吸、ゴボゴボ鳴る咳が挙げられます。
酸欠が進むと、舌の色が青くなり(チアノーゼ)、失神してしまいます。
最悪の場合はそのまま呼吸停止し、死亡してしまいます。

診断はレントゲンにより特徴的な肺の画像を得ることで行います。
また、ほとんどのケースで発症の背景に心不全があるので、心臓の超音波検査も必要になります。

治療は、まずは酸素吸入を行い酸欠状態を改善します。
同時に肺にたまった水を利尿剤で尿として排泄させ、弱った心機能は強心薬等によって補強します。
無事に肺の水が抜けると呼吸は楽になりますが、心臓の問題は残っているので再発の防止のために心臓の薬は継続していかなければなりません。
チアノーゼになるほどの肺水腫で来院した場合、治療をしても残念な結果になってしまうことも少なくありません。

肺水腫は、心不全の死亡原因のひとつです。
したがって、この状態になる前にいかに心臓病を発見して治療していくかがポイントになります。
しかし、残念ながら心臓病が肺水腫になってはじめて発見されるケースも多いです。
散歩に行ってもすぐに疲れてしまう、咳をよくしている、暑くもないのに舌を出しているといった症状が見られたら心臓が悪くなっているかもしれません。
病院で心臓の音を聞いてもらえば心臓の異常があるかないかはすぐにわかります。
上記のような症状があれば早めに病院に行ってみてもらうのがよいのではないでしょうか。

第54回 膿皮症 2013.9.30
みなさんこんにちは。朝晩はめっきり寒くなってきて、体調を崩しやすい季節になってきました。私もさっそく風邪を引いてしまいました。みなさんは気をつけてくださいね。

今回は皮膚の病気です。膿皮症は膿という字が示すとおり、細菌感染によって生じる皮膚の病気です。
皮膚の表面に生じる場合と深い部分に生じる場合がありますが、よくみられるのは表面に生じる表在性膿皮症です。

そもそも、正常な皮膚でも表面にある程度の細菌は存在しますが、通常は皮膚の角質や免疫によるバリアー機能によって細菌は増殖することはできません。
しかし、何らかの原因でこのバリアー機能が低下すると、その部分で細菌の増殖が生じます。
したがって、膿皮症は外部から細菌が入ってきてなるわけではなく、もともと皮膚に存在している細菌が増殖するためになる病気ということになります。

では、どのようなときにバリアー機能が低下するのでしょうか。よくみられる原因としては、アトピーやアレルギー疾患による皮膚炎が挙げられます。
皮膚炎が生じている部分は、皮膚の表面が荒れているため、細菌の侵入を許してしまいます。
このようなタイプの膿皮症はもともとの病気に付随して発生しているので続発性膿皮症といわれます。
他にも免疫機能が低下する病気(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、猫エイズなど)によって細菌の増殖を許してしまうことで膿皮症が発生することがあります。
これらとは別に、特に大きな原因はないのに細菌感染が生じてしまう場合を原発性膿皮症といいます。

膿皮症になると、背中やお腹に5mmくらいのカサブタとその周囲が少し赤い病変ができます。
この前の段階として、薄い膜に覆われた白い膿の入った袋が生じますが、たいていはすぐに破けてしまってしまうのでカサブタとして発見されることが多いです。
このカサブタの下の皮膚の細菌の増殖を確認することで膿皮症の診断が行われます。
感染によって炎症が生じているので、ある程度の痒みはありますが、アレルギーなどに比べると痒みは弱い傾向があります。

治療は軽度の場合は抗菌シャンプーによる洗浄だけでも治りますが、重度の場合は抗生物質の内服薬による内側からのアプローチが必要になります。
抗生物質を飲み始めると、1週間程度で病変の改善がみられてきますが、症状が改善してもさらに2週間程度は内服を続ける必要があります。
半端な期間でやめてしまうと、すぐに再発してしまい、さらに再発したときには前回使用した抗生物質が効きにくくなってしまっていることがあり、今医療現場でも問題となっている耐性菌の発生を招いてしまいます。
したがって、必ず指示された期間投薬を続ける必要があります。
治療を行っても再発を繰り返す場合は、膿皮症の原因となる他の皮膚疾患などが存在する可能性があるので、その原因疾患を追究する必要があります。

皮膚病はすぐに命にかかわることがない上に、治療期間が長く、飼主の皆さんの根気が試される病気です。
一見元気そうに見えても、皮膚の不快感があることは非常にストレスになるので、大変ですが動物のためにがんばって治療をしてあげてください。

第53回 肝リピドーシス 2013.8.29
みなさんこんにちは。ここ数日で、急に涼しくなってきてもう夏も終わりでしょうか。今年の夏ははなんだか短かったように思います。

今回はあまり聞き慣れないかもしれませんが、肝リピドーシスという病気です。
肝リピドーシスというのは肝臓に脂肪がたまっている状態、いわゆる脂肪肝の事で、猫でよくみられる病気です。
人の場合は暴飲暴食が原因となりますが、猫の場合は逆に食餌を取らないことで発生します。

そもそも、生体内で脂肪を利用するにはタンパク質を利用して肝臓で加工する必要があるのですが、絶食によりタンパク質が不足するとこの加工ができなくなり、そのまま肝臓に脂肪が蓄積していきます。
脂肪が蓄積した肝臓はフォアグラのように黄色く腫大し、肝不全を起こします。
肝不全により、黄疸や食欲不振などが生じ、さらにリピドーシスが亢進してしまい場合によっては生命の危機に陥ることもあります。

肝リピドーシスは、単独で生じるというよりは他の疾患に伴って発生します。
他の疾患というのは、食欲を低下させるようなもの全般で、たとえもとの疾患が軽いものであったとしても、長期間絶食が続いてしまうと肝リピドーシスになってしまい予想以上に悪化させてしまうということもあります。
猫では2日くらいの絶食でもすでに肝リピドーシスになり始め、特に肥満猫の場合は発生しやすい傾向があります。

治療は、もとの病気の治療をすることが重要ですが、それと同時に肝リピドーシスの治療も始めなければなりません。
先ほども書いたように、肝リピドーシスはタンパク質の不足によって生じているので、しっかりとバランスの取れた食事と十分な水分与えることで改善します。
水分は点滴で補給することができるのですが、タンパク質は消化管から与える必要があります。
しかし、食欲がないために肝リピドーシスになっているので、普通に食餌を与えてもたいていは食べてくれません。
したがって、流動食をシリンジなどで食べさせる強制給餌や食道や胃にチューブを設置してそこから直接流動食を入れる積極的な栄養補給を実施します。
設置したチューブは病気が治ればはずすことができるので、永久的にチューブが残るというわけではありません。

いざというときのために蓄えられているはずである脂肪が、いざというときには使えないというなんとも不思議な話ですが、実際どのような病気であっても猫はこの肝リピドーシスは注意が必要です。
太っているから少しくらい食べなくても大丈夫かなと様子を見がちですが、実はそこに重大な落とし穴が潜んでいることがあります。
猫の場合、2日以上の全く食餌をとらないようであれば、急いで動物病院にいきましょう。

第51+2回 水頭症 2013.8.1
みなさんこんにちは。前回50回目でめでたいという話でしたが、実は45,46回が2回あったようで、実は前回は52回目であると指摘を受けてしまいました。50回目は実はずいぶん前に終わっていたようで、そうとも知らずさらっと流していたようです。100回目のときは間違えないようにしたいと思いますが、まだまだ先の話になりますね。

今回は脳の病気です。水頭症というのは、頭蓋内に脳脊髄液が多く貯まって脳が圧迫されてしまう病気です。
脳が圧迫されることで、ふらつきやてんかん様発作などのさまざまな神経症状が生じます。

そもそも脳は、脳実質と呼ばれる神経細胞の塊の部分のほかに、脳室とよばれる脳脊髄液が流れる空間があります。
脳脊髄液は脳実質の保護や水分調整をしていて、正常であれば産生と排泄は同量で調整されています。
しかし、産生の増加や排泄の異常が生じると、頭蓋内の脳脊髄液の量が多くなってしまい、結果として水頭症になってしまいます。

水頭症は、チワワでの発生が非常に多く、そのほかにもパグやペキニーズなどの短頭種も多い傾向があります。
ほとんどのケースで生まれつきの脳脊髄液の排泄障害によって生じ、1歳になるまでに症状が発生します。
そのほかにも、年をとってから脳炎や脳腫瘍により排泄障害などが起こって発症することもありますが、先天性のパターンを診ることの方がが多いように思います。

症状は脳の圧迫による物理的な刺激と、慢性的な負荷による脳の萎縮で生じます。
この症状は、軽い意識障害であまり問題ないものから、盲目やてんかん様発作を起こしたり、昏睡状態のような重症なものまで幅広くあります。

診断は脳脊髄液の貯留を確認することで行われます。
水頭症の場合、頭蓋骨に仙門と呼ばれる穴があいていることがあり、その穴があれば超音波を当てることで脳脊髄液のたまり具合が確認できます。
超音波で見れない場合は、CTやMRIが必要になることもあります。

治療としては、原因となっている病気があればそれを治療します。しかし、天性の異常によって生じている場合は、原因の治療ができないため、脳脊髄液の量を減らす対症療法が行われます。
軽度の場合は、利尿剤や脳脊髄液産生を抑制する薬で脳圧をコントロールします。
重度で、神経症状が激しい場合は、脳脊髄液を外に排泄する管を設置する手術が必要になります。これは、脳と腹腔を特殊な管で連絡し、脳圧が高まると脳脊髄液がこの管を通って腹腔内に流れていくようにする手術です。
これらの治療で脳圧がうまくコントロールできると、神経症状をかなり抑えることができるようになります。

この病気は、チワワを飼いはじめた方には、必ず説明して若いうちに超音波検査を実施しています。もし、チワワを飼っていて、脳を検査したことがない方は、ぜひ一度病院で確認してもらうことをお勧めします。

第50回前立腺肥大2013.6.29
みなさんこんにちは。今回で50個目の病気となりました。最近ではすっかり月1回の更新となってしまっていますが、これからも細々と続けていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

さて、今回は雄犬の生殖器疾患では発生の多い、前立腺肥大です。人でも中年以降の男性では比較的多い病気のようですが、動物でも中年以降の発生が多い病気です。
前立腺は、膀胱のすぐ後ろで尿道を取り囲むように存在し、前立腺液といわれる精液の成分を分泌する器官です。
前立腺肥大とは、この前立腺が加齢とともに大きくなってしまい、排尿障害や排便障害を生じてしまう病気です。

前立腺が大きくなる原因としては、前立腺炎(感染症)や前立腺腫瘍などもありますが、この前立腺肥大は雄性ホルモンの影響で前立腺が良性に過形成を起こしてしまい大きくなってしまいます。
ある程度は外側に向かって大きくなっていくのですが、そのうちに内側に対しても大きくなっていき尿道を圧迫してしまうため、尿が出づらくなってしまいます。
また、前立腺は骨盤内にあるので、骨盤を前立腺が占拠してしまうと、大腸が押されて便も出にくくなってしまいます。
さらに、大きくなった前立腺に感染が生じると、前立腺炎に移行して、発熱や血尿が生じることもあります。

診断としては、超音波やレントゲンで膀胱の後ろにある肥大した器官を確認し、前立腺液や前立腺細胞をカテーテルや針で採取し、腫瘍や感染がないかを確認します。
これらの検査で特に異常がなければ、ホルモン性の前立腺肥大となります。

症状がではじめるとなかなか厄介な前立腺肥大ですが、動物の場合は画期的な治療法があります。それは去勢してしまうということです。
精巣を摘出することで、雄性ホルモンの影響が激減するので、1ヶ月もしないうちに前立腺は小さくなって、症状も消失します。
人の男性も高齢になると前立腺肥大になりますが、さすがに去勢するわけにはいかないので、ホルモン療法を行いますが、動物の場合は費用や手間を考えると、去勢のほうがメリットが大きいように思います。

前立腺肥大は、7歳を超えてくると発生頻度が上昇してきます。最近尿の出が悪いなと思った場合は、年のせいと片付けずに、一度病院で見てもらうとよいのではないでしょうか。

第49回 乳歯遺残 2013.5.30
みなさんこんにちは。ここ数日で急に気温が上がり、春を通り越して夏になってしまいそうな勢いですね。気がつけば街路樹の緑も増えていて、外を歩くだけでなんだか気分も明るくなる季節になりました。

さて、今回は歯についてのお話です。
犬や猫は、通常生後6ヶ月から10ヶ月くらいの間に乳歯が抜けて、永久歯に生えかわります。
しかし、チワワやプードルといった小型犬では永久歯が生えても乳歯が抜けないで残ってしまっていることがあります。この状態を乳歯遺残といいます。
残ってしまうのは犬歯と切歯(前歯)のことが多く、明らかに狭い範囲に歯が密集しているので見てみるとすぐにわかると思います。

このように乳歯が残ってしまっていると、通常であれば永久歯が生えるべき位置に乳歯が居座っているので、永久歯の生える位置がずれてしまいます。
これにより、噛み合わせに異常が生じ、歯周病の発生が高くなってしまいます。
また、乳歯と永久歯が狭い間隔で存在するので、その部分に汚れがたまり、歯垢がつきやすくなります。

このように乳歯が残っていてもよいことはないので、早期に抜歯の抜歯が推奨されます。
すでに永久歯が生えている状態で乳歯が存在するようであれば、自然に抜けることはほぼありません。
したがって、外科的に歯を抜く必要があります。
ただ、人と違って黙って口をあけていてはくれないので局所麻酔で抜くことは難しいため、全身麻酔が必要になります。
たいていは避妊手術や去勢手術を行うときに乳歯が残っているようならついでに抜いてしまいます。

人のような歯が溶ける虫歯にはあまりならないため、歯のケアはあまりされていないことが多いですが、ぜひ一度お家の動物たちの口の中をのぞいてみてあげてください。
もしかすると、気がついてないだけで乳歯が残っていたりするかもしれません。

第48回フィラリア感染症2013.5.7
みなさんこんにちは。ゴールデンウィークがあけても、まだまだ寒いですね。春はいつ来るのでしょうか。寒いのを理由にまだスタットレスタイヤのままですが、そろそろ交換しなければと思っている今日この頃です。

さて、今回は犬を飼っている方にはおなじみのフィラリア(犬糸状虫)についてです。
実は、犬糸状虫といっても、フィラリアは犬だけでなく猫にも感染し、さらに言えば、トドやアザラシといった海獣類も感染します。水族館ではこれらの海獣類もフィラリアの予防をしているらしいです。

まずは、フィラリアの生態について簡単に説明します。
フィラリアは回虫などと同じ線虫と呼ばれる寄生虫の仲間で、蚊に刺されたときに蚊の中にいるフィラリアの幼虫(L3)が動物の体内に侵入します。
この幼虫は大体3ヶ月くらいかけて動物の筋肉内で成長して、その後血管内に移動します。血液に乗りながらさらに成長して、最終的には10センチ以上の長さの細長い成虫(L5)になり、心臓や肺の血管内に住み着きます。
雄と雌が両方いる場合は、動物の血管内でミクロフィラリア(L1)を生み出し、蚊がこの感染動物から血を吸ったときにミクロフィラリアが吸い上げられて、この蚊から次の動物に移動していきます。
フィラリアは蚊の中だけでも、動物の中だけでも単独では成長できず、必ず動物から蚊、蚊から動物と移動しないと成長できません。
なんだか不便なようですが、おそらくこういう仕組みのほうが宿主を殺さずに、次々と生育の場を広げていくのに有利であると考えられます。

次に、フィラリア感染の症状を見ていきましょう。蚊に刺されて幼虫が入っても、すぐには症状は出ません。
症状がでるのは成虫が多数心臓や肺血管に住み着くことで、血管を詰まらせたときです。
フィラリアは主に右側の心臓に寄生することで、全身から帰ってきた血液の流れが止められてしまいます。
症状としては、腹水でお腹がポッコリしたり、肺血管の炎症による咳、赤血球の破壊により赤色の尿が挙げられます。
重症例では命の危険性が出てきます。

治療は、多数の成虫の感染があり症状が出ている場合は、首の血管から小さいマジックハンドのような器具を挿入して虫を物理的に引っ張りだします。虫を摘出すれば一気に症状が改善しますが、それなりにリスクもある手術です。
感染成虫の数が少ない場合は成虫を殺す薬を使用することもあります。ただ、虫を殺しても血管内に死滅した虫体は残るので、死んだ虫が流されて急速に血管のつまりを生じたり、虫体が分解されるまで炎症が起こったりして逆に悪化してしまう可能性もあります。
したがって、感染が軽度の場合は成虫の寿命が来るまで新しい感染を防ぐことで様子を見るという方法もあります。上にも書いたように、犬の体内だけでは子虫ができても成虫までにはなれないので、2年ほど待てばゆっくりと虫が消えていくので薬によって急激に虫を殺すよりは安全です。

このように、感染が成立すると非常に厄介なフィラリアですが、近年は予防の浸透によりほとんど飼い犬での発生は見なくなりました。
実は予防薬とは言われますが、実際のところは駆虫薬です。この薬は筋肉内にいる子虫に効きます。
つまり、感染を予防しているわけでなく感染しても成長する前に体の負担がない段階で殺しているということです。
この方法は成虫まで成長してから治療に比べると、格段に安全です。
こういうわけで、予防薬は蚊の出はじめる季節から蚊の出なくなる季節まで、蚊に刺されて体内に入った虫を定期的に駆虫するために定期的に飲む必要があるということです。

これまで、フィラリア予防はしているけど、実際はどのような寄生虫病なのか知らなかった方もたくさんいると思いますが、これを機に予防の重要性を知ってもらえればと思います。

第47回 マダニ寄生 2013.4.4
みなさんこんにちは。いつの間にか4月になってしまいましたが、まだまだ肌寒い日が続いていますね。本州では桜がもう散ったなんて話が出ていますが、札幌にいると桜なんてまだまだ先のような気がしますね。

さて、今回はマダニについてです。先日、日本でマダニが媒介するウイルス感染症による人の死亡がニュースになっていたので、耳にしたことがあるとは思いますが、マダニ自体はもともと日本に生息していて、マダニによる動物の咬傷は特に珍しいものではありません。

マダニというのは、一般的に知られているダニよりも大きく、肉眼でも十分観察できる大きさで、山や公園などの草むらなどに生息しています。
動物がそこに近づくと飛び移り、皮膚から血を吸います。
血を吸っておしまいなら問題ないのですが、このときにダニの中にいる細菌やウイルス、原虫などの微生物が動物の体内に入ってしまうことでさまざまな病気に感染してしまいます。
ちなみに、蚊は刺すことで吸血しますが、マダニは咬むことで吸血するので、動物の体との接着が強固で、1週間以上寄生し続けます。

犬の場合、マダニにより伝播する病気には、バベシア症、ロッキー山紅斑熱、ライム病などがあります。
上にも書いた死者が出た人の病気は、SFTSウイルスによる重症熱性血小板減少症候群と呼ばれるものだそうです。今のところ動物での発生は報告されていませんが、今後の動向は注意が必要だと思います。

寄生を防ぐためにマダニのいそうな草むらなどにできる限り近づけないようにするのがいいのですが、散歩している限りどうしても完全に接触をなくすことは難しいと思います。
不幸にもマダニの寄生された場合は、先ほども書いたように咬み付いて強固に接着しているので、無理に引き抜くと、頭部が皮膚の中に残ってしまう可能性があります。また、マダニの体を圧迫することでマダニの体液が動物に入ってしまいます。
他にも、火を近づけたり、アルコールをかけるとおちるなどの方法が知られていますが、どれも失敗するとマダニを完全に除去できず、皮膚の切開が必要になる可能性があるのでお勧めできません。
正しい除去方法は頭部を軽くつかんで、一定方向に回転させながら引き抜くというものなのですが、慣れてないと失敗することが高いので、発見したら動物病院で処置してもらうのが安全だと思います。

注意してもマダニの寄生は完全に避けることは難しいため、マダニの寄生を予防する薬があります。最近は、背中の皮膚にたらすタイプが主流で、大体は1回の投薬でひと月くらいマダニの寄生から動物を守ってくれます。
この薬を使用することで、マダニに寄生されても、血液中の有効成分によってマダニを撃退してくれます。予防薬とはいいますが、どちらかというと駆虫薬といったほうが適切かもしれません。
そうなると結局咬まれるなら伝染病の予防にならないのではないかと思われるかと思いますが、伝染病の感染はマダニの寄生時間が長くなるほど伝染率が高くなるので、このような薬剤により寄生されても早期に駆除するのは伝染病の予防において重要なことです。

日本に住んでいると、吸血昆虫によって死ぬような病気になるイメージはあまりないですが、世界にはたくさん昆虫が媒介する伝染性の病気はあり、今回のSFTSウイルスの死亡例は、日本でも吸血昆虫に対する危険性を持つ必要性を示唆しています。
札幌ではマダニの予防率はかなり低いようですが、これからはマダニ予防も考えないといけないのかもしれません。

第46回 空腹時嘔吐 2013.2.28
みなさんこんにちは。今年は雪がよく降りますね。もういい加減やめてくれてもいいんじゃないかと思うのですが、こればっかりはどうしようもないですね。

今回は空腹時嘔吐です。嘔吐というからには当然吐き気が起こるのですが、実はこれは病気ではありません。
ではどのようなものなのかというと、空腹で食餌の時間が近くなり胃酸が過剰に分泌され、それによってむかつきが生じて吐いてしまうというものです。我々もあまりに空腹になると気持ち悪くなってしまうことがあると思いますが、これと同様のものです。

そもそも胃酸というのは食物を消化するために分泌されるものですが、実は胃酸は胃に食物が入ったとき以外にも、頭で食べ物を想像したときにも分泌されます。
空腹時嘔吐というのは、この胃酸の分泌のパターンのうち頭で想像したときの状態により生じると考えられます。
したがって、嘔吐が起きるのは空腹のピークである食餌の時間が近いときに多く、朝や夕方の食餌前に突然白い泡や黄色い液体を嘔吐するといったケースが多いようです。

嘔吐を見つけた飼主の皆さんはぎょっとしますが、犬のほうはけろっとしていて早くご飯をくれといわんばかりに尻尾を振っていたりします。そして、食餌を与えるとぺろりと平らげ、その後は吐くこともなく普通に過ごしています。しかし、数日後にもまた同じように嘔吐したといったことが何回か続いて心配になり病院に来ることがよくあります。
もちろん同様の症状で、実は病気でしたということもあるので一概に大丈夫とは言い切れませんが、このような場合のときは食餌の与え方を少し工夫するだけでぴたりとおさまることが多いです。
それでも治らないようであればおそらく何かしらの病気を疑う必要があると思います。

では、どのようにするといいのでしょうか。
空腹時嘔吐は長い絶食時間があることで生じ、特に夜から朝にかけての発生が多いようです。
したがって、このような場合、夜寝る前に少し食餌を与えることで、朝方にかけての空腹感がまぎれることによって胃酸の過剰な分泌が抑制されて、嘔吐がなくなります。同様に、夜の食餌前に嘔吐する場合は、昼くらいに少し間食を与えるとよいでしょう。

今までと同じ食餌間隔なのに突然発生するのは不思議ですが、たいていはしばらくのあいだ間食を与えておけば、いつの間にかおさまってしまっていることがほとんどです。
吐くけど、その後食餌を食べる場合は、ほとんど空腹時嘔吐のことが多いですが、食餌の改善をしてもおさまらないようであれば他の病気の可能性が考えられるので病院に行くようにしてください。

第45回 甲状腺機能亢進症 2013.1.31
みなさんこんにちは。インフルエンザが流行っているようですが、皆さんは大丈夫でしょうか?私はインフルエンザではないのですが、風邪がなかなか治らなくてずっとマスクをしています。病気になると健康な状態というのがいかに大切かが身にしみますね。

さて、今回は甲状腺機能亢進症という病気です。以前、甲状腺機能低下症について書いたことがありますが、今回はそれとは反対で、甲状腺が過剰に働いてしまうという病気です。
この病気は8歳以上の高齢の猫でよく見られる病気で、特徴的な症状として、食欲があるのに痩せてくるというものがあります。他にも、性格が攻撃的になることもあり、食欲も元気もあるので病気であると認識されないことが多いようです。

人であれば自己抗体によって発症するバセドウ病による甲状腺機能亢進症が有名ですが、猫の場合は甲状腺の腫瘍化や過形成により、過剰に甲状腺ホルモンが放出されることで甲状腺機能亢進症となります。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、代謝が活発になり、食べても食べても痩せていくという状態になります。
一時期、この点に目をつけて甲状腺ホルモン剤によるダイエットが外国であったようですが、さまざまな副作用があるようでとても危険な方法のようです。同様に猫の場合も、代謝が活発になるだけならまあよいのですが、他にも心疾患や高血圧、嘔吐下痢といった消化器症状、肝酵素値の上昇などさまざまな異常が生じます。

診断は血液中の甲状腺ホルモンの測定をすることで行います。
このように診断は簡単ですが、それよりもこの病気を疑って血液検査をするところにたどり着けるかどうかがポイントになります。初期の段階では、一見元気そうに見えるので、病院に行かないことがほとんどです。

治療は甲状腺ホルモンの過剰分泌を何とかすればよいことになります。
方法としては、甲状腺そのものを何とかするというものと、甲状腺ホルモンを作らせないようにするというものに分かれます。
甲状腺を何とかするには、外科的に甲状腺を摘出する方法があります。この方法は、うまくいけば長期間甲状腺機能亢進症を抑えることができるので、基本的には外科的な処置をするのがよいのですが、診断が高齢時に行われるケースが多いため、実際は体に負担のかかる手術は行わないで、甲状腺ホルモンを作らせないようにするという内科的な治療が選択されることが多いようです。
甲状腺ホルモンを作らせないために、これまではチアマゾールという抗甲状腺薬が使われていました。この薬で甲状腺ホルモンの量を正常に戻すことができるのですが、副作用である胃腸障害が出やすいといった欠点があります。また、薬を生涯のみ続けなければならず、飼主さんにも負担がかかる治療法になります。
しかし、昨年くらいに甲状腺機能亢進症を治療できる特殊な食事が開発されました。この食事は甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素が少なくなるように設計されていて、この食事のみで甲状腺機能亢進症のコントロールができるという画期的なもののようです。
まだ市場に出てから時間があまり経っていないので、本当に公表のとおりの効果があるかはわからないですが、もしこれが有効であれば投薬無しで治療できるので、猫にとっても飼主さんにとっても負担が少ない治療となるのではないでしょうか。

年をとってきて痩せてきたけど、元気なので年のせいかなと思っていたらこの病気であったというパターンはよくあります。すぐにどうこうなるわけではないのですが、ほうっておくと最終的には命にかかわる合併症を起こしうる疾患です。
もし、高齢の猫で最近痩せてきたなと思っているようでしたら、血液を採るだけで簡単に診断できますので、病院で一度調べてみてはどうでしょうか。

第46回 下痢 2013.1.12
みなさんあけましておめでとうございます。今年もほどほどにがんばって更新していきたいとおもっていますので、よろしくお願いします。

さて、巷ではノロウイルスによる急性の胃腸炎が猛威をふるっていますが、幸い犬や猫には人のノロウイルスは感染しないようです。
しかし、この時期はノロウイルス以外の原因による下痢や嘔吐といった胃腸炎で来院する動物たちはたくさんいます。
そこで、今回は病院に来院する理由としてよく挙がる下痢についてお話したいと思います。

そもそも、下痢というのは大まかに分けて、以下の3つのメカニズムで生じます。
1、腸の運動の異常
2、腸で水分が吸収されない
3、腸より水分が過剰に分泌される
どのメカニズムによって下痢が発生するかは下痢の原因により異なり、多くの場合複数のメカニズムが関与して発生します。

下痢だけにかぎらず、嘔吐や発熱などの病気の症状にいえることですが、病気に対する体の示す反応というのは今ある異常を取り除こうとする防御反応です。
下痢に関して言えば、腸内にある異物を早く排泄するために便の排泄を多くしているといえます。したがって、下痢だからといってなんでもかんでも止めればよいというわけではありません。逆にとめることによって、異物の排泄が遅れてより症状が悪化してしまう可能性もありえます。

では、様子を見ていい下痢と、治療が必要な下痢はどこで判断すればよいのでしょうか。
たとえば、前日の夜に人の食事をこっそりいただいて、翌日少し柔らかい便をしているが、食欲元気ともに問題ないといったケースはよくあります。この場合はたいてい様子を見れば治ります。
これはまさに先に書いた、腸内の異物を排泄しようとする腸の働きによるものであるからです。
ただ、同じ原因であっても、水のような下痢をしていて、元気食欲ともにない場合は過剰な防御機構の働きによる脱水が生じてしまう可能性があるので、薬で下痢を止めたり、点滴による水分補給の必要があります。
つまり、治療が必要かどうかのひとつのポイントとしては、まず動物自身の体調です。下痢をしていても元気食欲があればあまり問題ないことが多いようです。
ただ、室内飼育の場合は下痢をしていると、カーペットや布団などを汚されてしまい大変なことになるので下痢を早めに抑えることもあります。これは実際はあまり正しい治療とは言えないのですが、人と暮らす上ではしかたないことだとおもいます。

つづいてもう一例、数ヶ月前より便がゆるめで、少しずつ痩せてきているような気がするけど、元気食欲ともに問題ないというパターンの場合はどうでしょうか。
このような下痢は、多くの場合腸内の異物を排泄しようとするのではなく、他の病気のために腸の機能がおかしくなって下痢をしていることが多いです。つまり、正常な防御機構としての下痢ではなく、何かの身体の異常の結果として腸が正常に働けなくなってしまっているということです。
このような場合は、根本にある病気を治さない限り下痢は治りませんし、病気によっては命にかかわってきてしまうこともありえます。このようなケースでは早めに病院に行く必要があります。

一口に下痢といっても、言い方はおかしいですが正常な下痢から異常な下痢までさまざまです。明らかにいつもと違うものを食べたとはっきりわかっている場合であれば原因はわかりやすいですが、動物の場合最初の時点で明確な原因がわからないことがほとんどです。
病院にいく必要があるかどうかの基準としては、元気食欲がない、2日くらい経過しても改善しないといったところでしょうか。
もちろん早めに獣医さんにみてもらうに越したことはありませんが、たかが下痢だと油断していると思わぬ大病のことがあったりするので、みなさんご注意ください。

第45回逆くしゃみ2012.12.10
みなさんこんにちは。あっという間に12月で、今年もあと少しですね。
年末にかけていろいろとイベントがあってついつい体調を崩しがちになりますので、飲みすぎ食べすぎにはご注意ください。体重計に乗るのが怖くなりますよ。

さて、今回は逆くしゃみについてです。他にもすいこみなどとも呼ばれます。
あまり聞き慣れないかもしれませんが、どのようなものかというと、何の前触れもなしにブーブーやフゴッフゴッといった声を出しながら、過呼吸のように苦しそうになるというものです。咳やくしゃみとは違って、息を吐き出すのではなく、過剰に吸い込んでいるのも特徴です。
見たことがない方はイメージしにくいとおもいますが、インターネットで逆くしゃみで検索してみると動画が見られるのでそちらを見てみてください。
はじめてこの症状に遭遇すると、発作じゃないかとビックリすると思いますが、だいたい1分程度でおさまり、その後は犬はけろっとしています。

症状だけ見ると何か重大な病気なのではないかと思ってしまいますが、実はたまに起こる程度であれば問題ない場合がほとんどです。そもそも逆くしゃみは鼻腔に対する刺激で生じるといわれていますが、特に鼻腔に異常がない犬でも発生するので実際のところ根本的な原因やその意味はよくわかっていません。

先ほども書いたように、たまに起こる程度であれば問題ないので、特に治療は必要ありませんし、むしろ治療の方法もありません。ただ、発症しているときは苦しそうなので何とかしてあげたいと思いますが、これをとめる確実な方法もありません。
背中や喉をさする、体を軽くたたく、鼻孔をふさぐなどすると止まるなどといわれていますが、どれも確実な方法ではなく、基本はおさまるまで様子を見るしかないようです。

すでに述べたように、逆くしゃみであれば問題ないのですが、何かしら鼻の中の病気があってその刺激が原因で頻繁に逆くしゃみが生じるようであれば、原因の治療が必要になります。
ただ、このようなケースであれば、普通のくしゃみが出ることのほうが多いのであまり迷うことはないかもしれません。
もし問題があるのかどうかはっきりしない場合は病院で確認してもらうのがいいでしょう。その際、動画で獣医さんに見せると診断がつきやすいので、携帯などで事前に撮影しておくといいと思います。

はじめて遭遇するととてもびっくりしてしまう逆くしゃみですが、問題ないことを知っていればあわてることもないと思いますので、これを機に逆くしゃみというのを覚えていただけると幸いです。

第44回 たまねぎ中毒 2012.11.27
みなさんこんにちは。とうとう札幌も雪が降り始めて、いよいよ冬も本番といった感じでしょうか。今年は例年よりも雪が降るのがかなり遅かったようですが、なんだか毎年同じようなことを聞いている気がするのは気のせいでしょうか?

さて、今回は引き続き中毒関連の病気で行ってみようと思います。こちらも結構有名だと思うのですが、たまねぎ中毒です。
この病気は、わが母校である北大で発見された病気で、原因不明の元気消失の秋田犬が、すき焼きの残りのたまねぎで中毒を起こしていたことを突き止めたことで知られるようになったと、学生のころ講義でこれを発見した内科の教授が自慢していたのを覚えています。
したがって、比較的最近(といっても35年くらい前ですが)知られるようになった病気だそうです。

たまねぎ中毒とは言いますが、たまねぎ以外にもニンニクやニラといったほかのネギ類でも同様の症状を引き起こします。
中毒を起こすのは、ネギ類に含まれるアリルプロピルと呼ばれる物質です。これが赤血球中のヘモグロビンと呼ばれる物質に作用することで、赤血球が破壊され(溶血)、結果として貧血を起こすことになります。

症状としては赤血球が破壊されることにより、赤い成分が漏れ出し、赤い尿をします。
赤血球の破壊が重度であると貧血が起こり、口の粘膜の色が真っ白になり、ふらふらになります。
また、赤血球中に蓄えられているカリウムというイオンが放出されることによる心不全も生じます。
これらの症状は摂取から1~3日くらいでおこり、重度の症例では高カリウム血症による心不全で死亡してしまうこともあります。

では、どれくらいの量のネギの摂取でこれらの症状が起こるのでしょうか。
これは個体差によるところが多く、結構な量を食べても平気な犬もいればほんのひとかけらで重度の貧血になってしまう犬もいるようです。これは、先にあげたアリルプロピルという物質を分解する酵素を持っているかどうかによるようで、我々人間はこの分解酵素を持っているから大量のネギを摂取しても平気なわけです。人の下戸の人とそうでない人との違いと同じようなものです。和犬はこの酵素を持っていないことが多いため、中毒になりやすい傾向があるようです。
また、アリルプロピルは熱を加えても安定しているため、カレーや炒め物、ハンバーグなどに含まれるたまねぎを食べたときでも症状を示すことになります。

治療に関しては、有効な解毒剤というものはありません。
摂取を現行犯で抑えられた場合は、急いで吐かせる処置を行い、できる限り体内から排泄し、吸収を防ぎます。
また、摂取から時間が経過している場合はすでに吸収されてしまっている可能性が高いので、貧血が起きてこないか数日間まめにチェックし、もし溶血が起きているようなら、点滴や薬剤による高カリウム血症による症状の緩和を行います。
重度の貧血が生じた場合は輸血が必要になることもあります。

このように、名前だけ聞くとたいしたことなさそうな病気ですが、その実なかなか恐ろしい病気です。
通常、生のたまねぎを盗み食いすることはあまりないと思いますが、ハンバーグのような調理品であれば可能性としては十分にありえます。このような調理したものの摂取の場合、実際にどのくらいのたまねぎを摂取したかわかりにくいことも多く、大丈夫だろうと油断すると痛い目をみることがあります。
わざわざたまねぎを与えることは少ないと思いますが、うっかり人の食事を食べてしまったときに、たまねぎが入っていたなんて事があるので注意してあげてください。

第43回 チョコレート中毒 2012.11.03
みなさんこんにちは。あっという間に10月も終わり、なんと今年も残すところあと2ヶ月です。
そんなこんなで、最近ではこのページの亢進もすっかり月1回になってしまいましたが、ゼロにならないように細々と続けていますので、たまにのぞいてみてください。

さて、今回は犬を飼っている人には結構有名で、飼っていない人はびっくりのチョコレート中毒です。
ただ名前はよく知られていますが、実際のところどのようなものかあまり知らない方も多いのではないでしょうか。

まず、チョコレートの何がよくないのかというところですが、テオブロミンやカフェインといったメチルキサンチンアルカロイドという物質が悪さをしています。
このメチルキサンチンの過剰摂取で脳、消化管、心臓に影響が生じ、異常興奮や過剰なよだれ、嘔吐や下痢、発作や頻脈などの中毒症状がみられます。
症状は摂取から12時間以内に見られ、最悪の場合は死亡してしまうこともあります。

気になるのがどれくらい摂取したら症状が出るのかというところだと思いますが、体重1kgあたりで100-200mgのメチルキサンチンを摂取すると致死量となるといわれています。
たとえば普通に売られているミルクチョコレートの場合、10kgの犬であればチョコレート500~1000gで致死量になります。すなわち板チョコが大体一枚55gくらいなので、10~20枚くらい一度に食べた場合です。こうしてみると結構な量を摂取しないと中毒にならないのがわかると思います。
しかし、例外として調理用チョコレートは高濃度のメチルキサンチンを含むので10kgの犬で60g程度食べただけで中毒を起こす可能性があります。
つまり、お菓子作りなどで料理用のチョコレートを使用することが多い方は常日頃から管理には十分に注意が必要ということです。逆に食べるのが専門の方は、少しくらい床に落ちた破片を食べられてもそんなに心配する必要はありません。
もちろん、わざわざあげる必要はありませんし、上記の数値はあくまでも中毒に関しての話で、脂肪分の取りすぎによる膵炎などのほかの病気になることもありうるので、大量に食べてしまった場合は病院に確認を取ったほうがよいでしょう。

治療は、食べてすぐであれば、まず病院に電話して、食べたチョコレートの種類と量を伝えましょう。
もし、危険な量であれば吐かせたり、胃洗浄を行う必要があります。
また、留守番中に食べてしまって時間がかなり経過している場合などは、すでに吸収されてしまっているので、点滴などで体内からの排泄をうながします。
また、中毒症状が認められる場合はそれぞれの症状に対する治療が必要になります。

チョコレートの盗食は発生頻度は多いですが、問題ない量のことがほとんどです。しかし、まれに致死量の摂取で命を落としてしまうケースもあります。
犬はチョコレート中毒なんてわかりませんし、おいしいものがあれば食べてしまうのは当然です。つまり、この病気になるかどうかは、完全に人間側の管理の問題になってきますので、飼い主のみなさんが気をつけてあげてください。

第42回 血管肉腫 2012.10.4
みなさんこんにちは。先日毎年恒例の札幌市主催で開催している動物愛護フェスティバルが盤渓スキー場で開催され、私も手伝いで参加しましたが、皆さんはいらっしゃったでしょうか。あまり天気はよくなかったのですが、会場にはたくさんの犬を連れた人がいらしてました。普段見ないような珍しい犬種もたくさんいたので、今回参加されなかった方は、ぜひ次回は参加してみてください。犬を眺めているだけでも楽しいですよ。

さて、今回は血管肉腫という病気です。大型犬を飼育されている方は耳にしたことがあるかもしれませんが、この病気は高齢のゴールデンレトリバーなどの大型犬でよくみる腫瘍性の疾患です。

ここで腫瘍の名前について少し解説します。一般的にガンと呼ばれるものは、発生する部位により、上皮性(皮膚、神経など)と非上皮性に分かれます。
上皮性のもので良性のものは~腫と呼ばれ、悪性のものは~癌といわれます。また、非上皮性のもので良性のものは~腫と呼ばれ、悪性のものは~肉腫といわれます。
つまり、一概にすべての腫瘍で当てはまるわけではないのですが、~癌や~肉腫と呼ばれる腫瘍はあまりよくないもののことが多いということです。

ということで血管肉腫に戻りますが、肉腫とつくので悪性の腫瘍です。そして名前のとおり血管に発生する悪性腫瘍です。
血管は体のどこでもあるので、体のどの部位からでも発生する可能性がありますが、大体は脾臓や肝臓といったお腹の中の臓器で発生することがほとんどです。したがって、外側から見ても腫瘍の存在はわかりません。
さらに厄介なことに、この腫瘍自体が痛みなどを発するわけではないので、初期のころはまったく症状がなく、早い段階で見つけることはかなり難しいです。
知らないうちに発生した腫瘍が徐々に大きくなっていき、ある日突然この腫瘍が破裂します。血管が腫瘍化したものなので、破裂すると大出血が起こります。
出血性のショックで虚脱して、血の気が引いて口の粘膜の色が白くなります。このときにはじめて病院に行き、腫瘍の存在を知ることになります。

このように緊急に出血して来院した場合、レントゲンや超音波検査で腫瘍がどこに発生しているか、転移はないかどうかを確認します。
もし、転移もなく、単発の発生であれば緊急の開腹手術を検討します。開腹して、出血している腫瘍部分を摘出します。大量に出血しているため、術前に輸血が必要になることが多いです。
一方、転移がある場合は、手術をしないで、輸血だけをする、または止血剤のみを投与するということもあります。というのも、転移がすでに認められている場合は、もし今ある病変をすべてとりきれたとしても、すぐに他の部位に新たに発生してしまう可能性が高いからです。
出血自体は多くの場合は、ある程度で止まるので初回の出血であれば一時的に持ち直すことも少なくはありません。ただ、短い期間に再出血を起こし、多くは1から2ヶ月以内に死亡しまうことがほとんどです。
しかし、このことは転移がなく手術をした場合でも当てはまってしまいます。検査では転移が見つからないだけで、実際には眼に見えない小さな転移がすでに起こってしまっていることがあるためです。
つまり、この血管肉腫という病気は、どうしても予後が厳しいといわざるを得ない病気というわけです。

手術以外の治療としては抗がん剤があります。ただ、抗がん剤も腫瘍をなくすというより、腫瘍の成長を遅らせる程度の効果しか期待できません。抗がん剤治療を実施した場合の生存期間の平均は5ヶ月くらいといわれています。
何もしないと2ヶ月、抗がん剤で5ヶ月です。どちらにしても厳しいといわざるを得ないことがわかってもらえると思います。ただ、これはあくまでも統計的なデータなので、まれに1年以上長生きする子もいます。

このように発生そのものが絶望的な腫瘍ですが、腫瘍が破裂してから手術するよりも、破裂前に見つけて摘出できたほうが転移までの期間が長い印象があります。
先ほども書いたように外見ではほぼこの腫瘍の有無は判断できません。したがって、大型犬では定期的な健診で超音波検査によるお腹の中のチェックもしておくことをお勧めします。

第41回 肥大型心筋症 2012.9.10
みなさんこんにちは。前回今年の夏はたいしたことないなどと調子に乗ったことを書いたら、その後からびっくりするくらい暑い日が続きましたね。ここ数日でようやく涼しくなってきましたが、今度は風邪を引かないようにお気をつけください。

さて、今回は心臓の病気です。あまり聞き慣れないかもしれませんが、心筋症というのは心臓の筋肉の異常で、うまく血液を送り出せなくなる病気です。
数年前に心臓外科のドラマや映画がはやりましたが、アレも心筋症という病気に対する手術に関してのお話だったと記憶しています(拡張型心筋症といって今回のものとは違った型の心筋症ですが)。
今回の肥大型心筋症というのは、心臓の筋肉が異常に厚くなってしまい、心臓の内側の空間が狭くなってしまうため、少ししか血液が送り出せなくなってしまうというものです。
この病気は猫でよく見られるので、今回は猫の肥大型心筋症について書いてみたいと思います。

この病気はノルウェージャンやアメショーでは遺伝的な原因で発生が多いとされますが、飼育頭数が少ないので、雑種の猫のほうが実際に見る機会は多いような気がします。
症状が出てくるのは5~7歳くらいが多いようですが、高齢になって健康診断ではじめて気がつくことも結構あります。

軽度で、初期のころはほとんど症状を示すことはありません。
病気が進行すると、徐々に心機能が悪くなってきますが、それでもなかなかはっきりとした症状は示さないことが多いです。心機能が低下すると疲れやすくなりますが、猫は犬のように散歩に行かないので、気がつきにくいのではないでしょうか。
そしていよいよ末期になって一気に重篤な症状が出ます。心不全によるチアノーゼ、肺水腫や胸水、心臓内で血栓ができてそれが抹消の血管で詰まることによる後肢麻痺などが出てはじめてこの病気に気がつくことが多いです。なんだかんだいってもこのパターンが一番多いようにも思います。
来院したときには口をあけて、舌を出し、腹式呼吸をしていて、血栓症を併発しているときには、後ろ足が立たなくなってしまっていることもあります。犬では舌を出して呼吸することはよくありますが、猫でこの呼吸をしているときは相当危険な状態であることをしっておいてください。
このような時は、緊急の処置が必要になりますが、この状態で来院した場合、3日後の生存率は50%との報告もあり、非常に危険な状態です。

この病気は、外科的なアプローチは今の獣医療では行われていないので、治療としては内科的な治療がメインとなります。内科的な治療の目的は、病気の進行を食い止め、不足している心臓の働きを助けることになります。
初期のころに発見できた場合は、ごく軽度であれば定期検査のみで治療しないこともありますが、ある程度進行してくると症状がなくても内服薬による治療が開始します。
薬の投与で病気が治るわけではないので、基本的には生涯薬の投与が必要になることがほとんどです。

内服薬としては、ベータブロッカーやカルシウムチャネルブロッカー(抗不整脈、心筋の拡張を補助)、ACE阻害薬(心筋保護)を使用します。
重症例では、肺水腫の治療に利尿剤を、血栓の予防にアスピリンやヘパリンを、強心薬としてジゴキシンやピモベンダンといった薬を使ったりしますが、
どの薬をどのくらい使うかは、超音波検査やレントゲン検査の結果をみて決定していきます。

猫の肥大型心筋症は、かなり進行するまで症状がまったくなく、症状が出たときにはもはや手遅れということも多々あります。したがって、少なくとも1歳くらいまでには一度心臓の超音波検査をしておくことをお勧めします。
この病気は早めに見つけて、進行をできるだけ食い止めることが一番だと思います

第40回 白内障 2012.8.20
みなさんこんにちは。あっという間にお盆も過ぎて、もう夏も終わりですね。札幌は8月にはいってからは涼しかったので、暑いのが苦手な私はとても快適でした。毎年このくらいであれば夏も好きになれるのですが。

さて、今回は白内障です。この病気はみなさんご存知と思いますが、目が白くなる病気です。
具体的に白くなるのは眼の中の水晶体とよばれるレンズの部分で、白くにごってしまうことで光が通らなくなり、最終的にはものが見えなくなってしまいます。
動物の場合、発生は遺伝性のことがほとんどで、歳を取っての発症が多い病気です。
しかし、まれに若い頃に発症することもあり、この場合進行が早いケースが多いようです。また、糖尿病やブドウ膜炎といったほかの病気が原因で二次的におこることもあります。

症状としては、ご存知のとおり眼が白濁してきます。
初期のころは普通に見ただけではわかりませんが、ある程度進行してくるとぱっと見ただけでわかるようになってきます。初期のときはまだ光を感じられるのですが、進行すると完全に光が網膜に届かなくなるので視力はなくなってしまいます。
白内障と似た症状で水晶体が白くなる核硬化症というものがあります。この核硬化症も白内障と同じように眼が白くなってくるのですが、白内障と違い光は通過できるので視覚は維持されています。この違いはおそらく家庭では見分けられないと思うので、動物病院で確認してもらうのが良いでしょう。

視力がなくなるので生活ができなくなるのではと心配なところですが、白内障になっても、特に老齢性の場合は徐々に進行していくため動物も視覚の喪失に適応していきます。
したがって、完全に見えなくなっても聴力や嗅覚で補って、一見すると見えているように生活するため、飼い主の方も病院で指摘されるまで視覚がなくなっていることに気がついていないこともあります。
基本的には白内障自体は痛みなどはないのですが、まれにレンズの中身が液状化して眼球内の漏れ出すと炎症を起こし、重度の痛みを伴うことがあります。

治療は手術による水晶体の乳化吸引とレンズの挿入です。
目薬で進行を食い止める方法もありますが、効果のほどははっきりしていないようです。
早期に手術を実施すると視覚を維持することができますが、上に書いたように老齢性の場合は犬自体が余り不自由していないこともあり、必ずしも手術が必要ではないと思えることもあります。
もちろん眼は見えたほうが良いのですが、麻酔のリスクや術後の管理に点眼をしっかりできなければならないといったデメリットもあるので、飼い主の方との相談で決めていきます。

高齢の動物はかなりの確率で目が白くなってきますが、なんとなく放置してしまいがちです。多くはただの白内障や核硬化症で問題ないことが多いですが、それ以外の重大な病気のこともまれにあります。
そのような場合早めの処置が重要になりますので、気になったら一度病院で見てもらうのが安心でしょう。

第39回 皮膚糸状菌症 2011.7.31
みなさんこんにちは。今年は涼しいと思っていたら突然暑くなってしまいましたね。完全に油断してました。私は暑いのはほんとに苦手なので、秋が来るまで家でじっとしています。

さて、今回は皮膚糸状菌症です。聞き慣れない病気ですが、いわゆるカビによる皮膚疾患です。
カビといえば水虫を思い浮かべると思いますが、だいたい同じようなものです。ただ、カビにもいろいろな種類があり、犬猫ではMicrosporum canis, Trichopyton mentagrophytes, Microsporum gypseumといった種類がよくみられます。

感染は通常はカビを持った動物との接触により起こります。したがって、家の中で飼育している動物が突然この病気になることは少なく、野良猫のように外で他の動物と接触い動物に感染がおこります(特に幼齢の動物で多い)。
このようにしてカビに感染した野良猫を新しく家に入れたときに、先住動物にうつったりすることがあります。さらに、この病気は人にもうつります。
飼い主さんの話を聞くと、先住動物よりも人のほうが痒みや皮膚症状が出ることが多いように感じます。

症状としては、皮膚や爪、毛の角化層へのカビの感染による脱毛と発赤がみられます。痒みは軽度の場合はほとんどなく、重度の皮膚炎が起きてきてから出てきます。
カビの典型的な皮膚症状として赤い輪状の皮膚の脱毛が有名ですが、実際は他の皮膚病とぱっと見は見分けがつかない普通の皮膚炎しか示さないことも多々あります。
また、感染していてもまったく症状がないこともあり、他の動物に伝染することで初めてカビの存在に気がつくこともあります。

診断は、顕微鏡で毛に付着しているカビの胞子を見つけたり、病変の毛を培養してカビが生えるかどうかを見たり、紫外線ランプでカビが光るかどうかを見たりしますが、とにかくカビの存在を確認することが大事です。

治療は、抗真菌薬の内服や塗り薬です。基本的には免疫がしっかりしていれば数週間で徐々に回復していきますが、環境中にカビが残るとまた再感染することもあるので、症状が治まってもしばらく治療は続ける必要があります。
また、環境中に残っているカビを殺滅するために漂白剤で家の掃除をすることも大事です。
他にも、長毛の動物の場合は毛を短くしたり、抗真菌シャンプーで洗浄するのも有効です。
同居の動物がいる場合は、明らかな症状がなくても予防的に治療をする必要があります。
人のほうはたまに塗り薬をほしいといわれますが、人の皮膚科で治療してください。

子猫を拾って、なんだか人間の皮膚が痒いなとおもったらカビの可能性があります。他にもツメダニなどがいても痒くなります(この場合は、腰より下が痒くなることが多いらしいです)。
新しく外からの動物を入れたときは、一度、カビなどのうつる病気がないか病院で確認してもらうと良いでしょう。

第38回 肛門嚢自壊 2012.7.14
みなさんこんにちは。前々からこのページがどんどん長くなっていっているので、整理しようと思っていたのですが、めんどくさくてずっと放置していたのをついに少し改良しました。
といっても古い記事を別ページに移しただけですが、今後は各記事にたどり着きやすいようにしたいと思います。たぶん雪が降るころにはできると思いますが、気長にお待ちください。

さて、今回は肛門嚢自壊です。肛門嚢というのは肛門のすぐ近くあり、肛門腺の分泌物を貯めておく袋です。
この袋は細い管で肛門の入り口に通じており、排便時に少しずつなかの分泌物が排出されます。したがった通常はたまりすぎることはないのですが、肛門嚢の細菌感染や加齢により分泌物が固くなってしまうと、分泌物が排泄されなくなって、肛門嚢の容量を超えて肛門腺液が蓄積されていってしまいます。
そして限界を超えると肛門腺が破裂してしまい、皮膚を破壊して肛門の横に穴が開いてしまいます。この状態が肛門嚢自壊です。

この病気は、中齢を超えたくらいの小型犬や猫でよく認められますが、まれに若い動物でも発生します。
症状としては、肛門の横のやや下あたりに穴が開いて、出血しています。家では痛みがあるのではっきりとみせてくれないこともありますが、多くの場合動物は患部を気にしてずっとなめているので、肛門周辺に異常があることは気がつくことができると思います。

治療としては、空いてしまった穴に残っている分泌物をきれいに洗浄して、そこに感染が起きないように抗生物質を投与します。
肛門腺周囲の皮膚は壊死してしまっているので、思っているよりも大きな穴が開いてしまいます。しかし、感染さえ起こさなければ、一度広がりきった皮膚の穴は急速に回復して、破れた肛門嚢も再生します。
10日もあればほぼ元通りになることが多いように思います。
ただ、動物が気にしてなめてしまうといつまでたっても治らないので、エリザベスカラーの装着が必要になることが多いです。

無事に治っても、放置しておくとまた分泌物がたまって破裂してしまいます。
したがって、一度肛門嚢が破裂した動物は、定期的に肛門嚢を絞る必要があります。個体差はありますが、最低でも1月に一回は必要です。
普通の場合は何回か練習すれば肛門嚢は自宅でも絞れることが多いのですが、肛門腺が固くなっていたりして絞りにくい場合は、なれた人に絞ってもらわないとうまくいかないこともありますので、病院で絞ってもらったほうが無難かもしれません。

肛門腺自壊は適切に処置すると、ほぼ完治しますが、感染が起きたりすると瘻管といって皮膚に穴が開いた状態で治ってしまい、とても厄介なことになってしまうこともあります。命にかかわる病気ではないのですが、見つけたら早めに病院で処置してもらいましょう。

第37回 口内炎 2012.7.7
みなさんこんにちは。実は当院のロゴマークですがただのハート型ではなく、良く見ると犬と猫の形をしています。結構気がついていない方も多いのでぜひもう一度みてみてください。


さて、今回は口内炎です。口内炎はみなさんよくご存知だと思いますが、疲れたときや不摂生な生活をしたときにできて、口に物を入れるとしみてたまらないアレです。
動物の場合、口内炎は猫でよく見かける病気で、外傷や内臓疾患によって起こることもありますが、猫の場合ウイルス感染が原因となっていることが多いようです。

症状としては、歯茎や頬の内側、舌に潰瘍ができ真っ赤にただれ、涎をたらしたり、ひどい口臭がします。
悪化すると、ドライフードなどの硬いものを口に入れたときに痛くてもだえるようになり、最終的にはやわらかいものや水すらも口に入れるのを嫌がるようになってしまいます。
人でも一箇所小さく口内炎ができただけでもとても痛いことを考えると、口の中がすべて炎症の状態というのはすさまじい痛みを伴っていると想像できます。

原因は先に書きましたが、ウイルス感染によることが多いようです。ウイルスとしては、カリシウイルスやヘルペスウイルスといった粘膜に攻撃をするタイプと、エイズウイルスや白血病ウイルスといった免疫力を落とすことで二次的に感染を起こし粘膜にダメージを与えるタイプがあります。

治療は、炎症を抑えるためにステロイドを使用します。短時間型のものもありますが、多くの場合は2週間くらい持続して効果を発揮する注射タイプのもの(デポメドロール)を使います。
また、荒れた口腔粘膜に細菌感染が起きていることも多いので、抗生物質の投与も行います。
また、ウイルスが原因とわかってきたのでインターフェロンωといわれる抗ウイルス効果のある薬も使用しますが、残念ながら完全にウイルスを排除できることは少なく、ウイルスを抑える程度で完治するわけではないといった印象があります。
初期の段階では薬でうまくコントロールできますが、症状が進行すると内科的な治療のみでは十分ではなくなってきます。こうなると抜歯を行います。なぜか抜歯すると口内炎が収まり、重度の場合はすべての歯を抜いてしまいます。
歯がないと食事はできるのか心配になりますが、実は丸呑みでも問題なく消化できるので、ドライフードでも大丈夫ですし、食べにくそうなら缶詰などのウェットフードを与えれば大丈夫です。
ただ、全抜歯の手術は猫にとって負担が大きく、すでに高齢になっていることもあるので、できればやらないに越したことはないという印象があります。
ただ、どうしても薬が飲めないとか、薬の副作用が生じる場合は早めに抜歯したほうが良い場合もあり、その辺は獣医さんと相談して決めるのが良いと思います。

普通に生活していて猫はあまり歯をチェックする機会がないので、軽度の場合はあまり気づかないですが、もしおうちの猫ちゃんが最近固いフードを食べにくそうにしていたりするようでしたら、一度病院で見てもらってはどうでしょうか。

第36回 潜在精巣(陰睾)2012.6.19
みなさんこんにちは。今回はちゃんと一週間で更新です。こういうものは一度遅れるとずるずるといってしまうのでいけませんね。ブログなどをマメに更新している人はすごいと思います。このページもできるだけの範囲でがんばっていきたいとおもいますので、気が向いたときにチェックしてみてください。

さて、今回は潜在精巣です。あまりなじみないかもしれませんが、これは本来は陰嚢にあるべき精巣がおなかの中や、皮膚の下に隠れてしまっている状態です。
そもそも精巣は胎児期におなかの中で発生して、生後半年くらいまでに徐々に移動して陰嚢に降りてくるのですが、これがうまくいかなくて途中で止まってしまうと潜在精巣となってしまいます。
原因として遺伝的な異常が関係しているようで、子供にも遺伝することがあるので、潜在精巣の雄は繁殖にはまわさないのが基本となっています。

潜在精巣で何か悪いのかということですが、基本的にはすぐに何かがおこるというわけではありません。しかし、本来精巣は体外に出しておくことで低い温度にさらさなければならないところを、長い期間、温度の高い体内に入っていることなどの環境の影響で腫瘍化しやすいとのデータがあります。正常の場合と比べて、10倍くらいなりやすいようです。

潜在精巣はトイプードルやチワワといった小型犬でよく見かけますが、まれに猫や大型犬でも見ることがあります。
診断は陰嚢を触って精巣の数を確認するだけなので簡単です。1つしかないまたは何もないようであれば潜在精巣です(まれに精巣がひとつだけの奇形ということもありますが)。
あとは、降りてきてない精巣がどこにあるかの違いです。陰茎の横の皮膚に小さいしこりがあれば皮下潜在精巣で、なければ腹腔内潜在精巣です。
しかし、潜在精巣は正常なものに比べて小さいことが多いので、太っていて脂肪が多いと触っても皮下にあるかどうかはっきりしないこともたまにあります。

治療は、基本は手術で精巣をとってしまうことです。上述のとおり遺伝するので、子供をとることはお勧めしないので、正常な精巣もとることがほとんどです。
手術としては、皮下にある場合は、皮膚を切るだけで出せますが、おなかの中にある場合は、普通の去勢手術よりも深い切開が必要になるので、少しだけ大変です。

潜在精巣は結構飼い主の皆さんは気がついていないケースがあるので、もし去勢していない動物を飼っている方は一度チェックしてみてはどうでしょうか?もし潜在精巣なら一度病院で見てもらうことをお勧めします。

第35回 食糞症 2012.6.12
みなさんこんにちは。久しぶりの更新ですが、いつの間にかすっかり暖かくなりましたね。
この季節は、何をするにもちょうどいい気温なので私は一番好きです。
ただ北海道はこのちょうどいい季節が一瞬なのでもう少し長くあるといいんですけどね。

さて、そんなさわやかな気分を壊してしまいますが、今回は意外と相談されることの多い食糞についてです。
我々人間の感覚ではありえないことですが、子犬のときはよくみられる正常な行動でもあります。大半は成長とともにやらなくなりますが、癖になってしまうと成犬になっても続いてしまいます。
消化酵素の欠如や寄生虫などの病気で発生することがあるとも言われていますが、ほとんどの場合は病気は関与していないことが多いように感じます。

食糞自体は、自分の便を食べるにとどまっている限りは、人から見ればげんなりしますが、健康上は問題ありません。
ただ、散歩中に他の犬のものなどを口にすると、寄生虫などを移される可能性はあるので、そのような場合は要注意です。しっかりリードでコントロールする必要があります。

どうやってやめさせるかがもっとも気になるところだと思いますが、残念ながら完璧な解決法はありません。
食餌を匂いの少ないものにするとか、便の味を苦くする薬などがありますが、効果はあったりなかったりと、まちまちなことが多いようです。
一番なのはやはり便をしたらすぐに片付けることだと思います。特に小さいときになるべく便を食べる習慣を作らなければ、成犬になったときに自然と食糞をしなくなるようになることが多いようです。
しかし、仕事などで日中留守が長い場合はなかなかできないこともあるので、そういう場合は難しいところです。

また、食糞を見つけてもあまり怒らないほうがよいようです。便を食べたことよりも、便をしたことを怒られたと感じてしまい、隠れてシーツ以外の場所で便をするようになったり、便を隠そうとして食べるようになって余計悪化することがあります。
また、あまりキャーキャー騒ぎすぎると、犬はかまってもらえると勘違いして食糞が加速してしまうこともあります。

上でも書いたように、食糞は健康上の問題にはなりませんが、まれに病気が関与していることもあるので、一度病院で便検査などを受けて、獣医さんに相談してみるといいかもしれません。できればやめてほしいですよね。

2012.4.30
みなさんこんにちは。4月30日で当院が開院して一年になりました。
さまざまな方の助けを受けながら病院をスタートさせ、今日までがんばることができました。
この一年で多くの人や動物と出会い、そして悲しい別れもありました。
私の人生でもきっと忘れることのできない一年になると思います。
これからも皆さんの力になれるよう初心を忘れず、日々精進していきたいと思いますので、今年もよろしくお願いします。

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